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□該当
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広間の中が悲惨なことになっていた。

メタルマンとエアーマン、バブルマンの上三機体は別任務に就いていてまだ
帰還していない。ブラコンながら度の過ぎたふざけは許さない長兄も、長兄より
ずっと厳しい次兄も、自分に火の粉が降り掛からないよう保身の意味もこめて
妙なことにはさり気なく釘を差してくれる三兄もいなかった。当然誰よりも
権限があるDr.ワイリーは、しかしどうやらどこかへ出かけているらしく見当たらない。
つまり、止める者も嗜める者も、誰一人としていなかったということだ。
末弟のウッドマンとの任務から帰還したフラッシュマンは、視界に広がる惨劇に
即効で回れ右をしたくなった。見たくない。見たくなかった。自室に籠もって
機体整備とデータ解析をしながら知らぬふりを通したい。そう回路の中で叫ぶ。
しかし、そんなことをすれば共に目撃してしまった末弟に丸投げすることに
なってしまうため、フラッシュマンにはとてもできなかった。
フラッシュマンの隣に立っているウッドマンは目の前の光景に茫然としている。
広間の中が、悲惨なことになっていた。


該当


死屍累々。
そんな言葉がフラッシュマンとウッドマンの回路によぎった。
待機組であったクイックマン、クラッシュマン、ヒートマンの三機体が広間の
床に倒れている。彼らの辺りには何やらビンが転がり、中に入っていた液体が
あちこちに零れて独特な匂いを部屋に充満させていた。濃厚なそれはセンサーを
いやに刺激し、その類があまり得意でないウッドマンがくらりと鼻を押さえる。
「…取り敢えず、窓開けっからちとそこで待ってな、ウッド」
「あ、ごめ、兄ちゃん……」
「謝んな、お前は何も悪かねぇだろ。寧ろこの大馬鹿共に謝ってほしいぜ」
窓にスタスタと歩きながら、フラッシュマンは手近にいたクラッシュマンを
ごす、と軽く蹴った。がらりと窓を開ける。すぐに乾いた少し涼しい風が部屋に
入ってきた。部屋に漂っていた匂い───数種類の酒の交ざったもの───が
薄れ始める。
───待機組は目付け役がいないのをいいことに、彼らだけで酒を飲んでいたのだ。


「しっかし…何でちゃんぽんな飲み方すっかねぇ、こいつら?」
酔いまわんの速えくせに。
部屋中の床に転がるビンを次々と拾い集めながら、フラッシュマンが愚痴を零した。
中途半端に中身が残ったものがちらほらあるそれらは、米を原材料とするものや
葡萄を原材料とするもの、炭酸入りのもの、麦を原材料とするものなど様々な
ものがある。六兄の零した言葉に、ウッドマンは不思議そうに首を傾げた。
「うーん、…よく分かんないんだけど、ちゃんぽん? に飲んじゃダメなの?」
「雑多に飲むと変な酔い方するってよ。混ぜるな危険、みてぇなもんだ」
「ふぅん?」
手は部屋を片付けながら兄の説明に不思議そうな声を上げるウッドマンに、
フラッシュマンは肩を竦めて返す。
「俺もよく分かんねぇけどよ、酔わねぇかんな」
「何で僕らにお酒に強い弱いがあるんだろうね?」
兄の仕草にくすりと小さく笑い、ウッドマンがフラッシュマンに問い掛けた。
ナンバーズは皆同じ父に造られたにもかかわらず、酒の耐性にそれぞれ差が存在するのだ。




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