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□信号2
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こんな時、自分なんかよりもずっと頼れる、頼りにしよすがにしている長兄も
六弟も、二人ともいない。
しかしパニックに陥るその寸前、クラッシュマンのセンサーが兄弟機以外の
機体の接近を感知した。
「…!?」
先程撤退したはずの敵が、また攻めてきたらしい。
「くっ…そ、こんな時にっ…!」
クラッシュマンが苛々とドリルを構えた。
ボムはもうないが、それでも両腕のドリルで対応できる。残存エネルギーもまだ
暫らくは保つ。苛立ちで、暴走時までとは程遠いが視覚システムに赤みがさした。
早く兄弟機を探さないといけないときに、煩わしいことこの上ない。
そんな状況に追いやったのも仲間を危険に曝したのも、他ならぬあいつらだ。
───さっさと鉄屑にかえてやる。
そう思いながらクラッシュマンが敵と向き合うために視点を変えようとした時、
見慣れた赤い色をちらりと見つけた。長兄のメタルマンの機体色だった。
「! メタル、メタル!! よかった、無事か!?」
兄弟機を見つけたことに一気に安堵し、戦闘体勢に入りかけていたのを一旦
止めて、クラッシュマンはメタルマンの傍に走りよる。やはりダメージを受けて
いるらしく、砂煙で大半隠れていながらも倒れている姿が視認された。
それでも、落石に巻き込まれなくてよかった、と取り敢えずの安心感が
クラッシュマンの機体を満たす。よかった。見つけた。あとは長兄と一緒に
六弟を探せば問題はない。
「メタ…───」
しかし、近づくにつれて砂煙が少し薄れ、長兄の全身が視認できた途端、
クラッシュマンの声が途切れた。
表情が凍り付く。


「……────!?」


長兄が俯せで倒れていた。

ひび割れ焼け爛れ、コアの光が漏れるまでに損壊した背面部。
間接部を破損したらしく千切れかけ、損失しそうになっている脚部。
黒く焼け焦げ、煤け、薄汚れた機体は爆撃を直に受けたためだろう。
何かを掴もうとでもしたのか、のばされた、しかし何もその手に掴んでいない腕。
意識のない、機能停止した姿。
その頭部に、またも見慣れた青い色の、小さな破片が確認できた。
手をのばした先は、崩落のど真ん中。
その岩々の中に、誰がいるかなんて考えたくなかった。
長兄が、酷く破損した姿で俯せで倒れていた。
六弟の姿は、どこにも見つけられなかった。


クラッシュマンは、自身の回路のどこかが機能停止したことを感知した。




────…ヴツン──




一呼吸おいて、くるりとクラッシュマンの顔が前方の敵の群れへと向けられる。
視認出来るすべての敵機体を、システムがターゲッティングした。
ピピピピ、と捕捉に鳴る自身の音すら聞こえていないのか、クラッシュマンは
ただ恐ろしいほど無表情を携えている。


残弾数ゼロ。
装甲の表面部一部ダメージによりエラー。貫通なし。稼働に影響なし。
駆動系統異常なし。
両腕部ドリル、回転開始。
回転速度上昇。
敵捕捉率62.7% 随時更新中。


攻撃目標



全破壊。



朱色の機体が、群れで襲いくる敵機体に向かって駆け出す。無表情な彼の
視覚システムは、温度のないその中に一際鮮やかな赤に染まっていた。

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