Main2

□2
8ページ/31ページ




「おい、バブル」
「ん? 何、エアー兄さん?」
「あれは何だ?」
次兄の問い掛けに顔を上げたバブルマンは、大きな手が指し示す方へ、つい、と
視線を向けた。途端に視界に入る光景に理解が及び、ああ、と声を上げる。
何のことはない。そう思いながらバブルマンは読んでいた本を閉じた。


日常


エアーマンとバブルマンの視線の先には、彼らの兄弟機がいた。
どうやらオフだったのを捕縛されたらしい憮然とした様子のフラッシュマンと、
その六男を捕縛した張本人だろう、七男のヒートマンだ。
「気にすることないよ兄さん。ヒートが暇つぶしにフラッシュに戯れてるだけ」
クラッシュとウッドが任務でいないけど、それを除けばいつものことだよ。
のんびりと言うバブルマンに、エアーマンは頷いた。
「ああ、確かにそれだけならいつものことだ。しかしなバブル」
エアーマンは思う。
兄弟仲が良いのはいいことだと。
良好なコンビネーションがあれば任務の成功率向上に繋がり、父の野望へと
より近づき易くなる。
そしてその創造主たる父、ワイリーが嬉しそうにする。
自身もまた兄弟機と睦まじくいるのは好ましく思っているので、兄弟仲が良い
のはいいことだ、とエアーマンは思う。
しかし、目の前の光景には如何せんどうしたものかと溜め息を吐いた。
「何故フラッシュに戯れつくヒートにメタルとクイックが加わっているのか、
 と聞いているんだ」
次兄の声に、バブルマンはさぁねえ、と穏やかなほほ笑みを浮かべる。
二人が見る先、フラッシュマンに戯れ付くるヒートマンの図に、エアーマンの
言葉どおりいつもと違う赤い二機体が加わっていた。

「フラッシュー、みかんの皮剥いてー」
「お兄ちゃんのもー」
「おいハゲ、俺のも」
「くたばれ馬鹿共」
ヒートマンが差し出すみかんを手に取りながら、フラッシュマンは赤い兄たちに
一瞥もくれずに吐き捨てる。丸い果実の皮を武骨な手が器用に剥いていった。
あーん、と口を開けるヒートマンに「…てめぇなあ」と零し、みかんを一粒
放り込む。美味しい、当たりだー! と喜ぶ七男を見て、クイックマンが
納得行かないような表情を浮かべた。
「こらハゲ、ヒートはよくて、何でこっちはダメなんだ?」
「そーだよ、たまにはお兄ちゃんも甘えたい!」
「死んで下さい。てかヒートと同列になりてえのか」
「ちょっとそれどういう意味? 弟の特権だから僕はいーの!」
「おめぇは巧く剥けなくて腹立ててみかんを炭にした過去があるからだろうが」
「えー、フラッシュ、それでもヒートばっかりずるいよー、お兄ちゃんも」
「俺のも皮剥けハゲ」
「煩せえ自分で剥け何で俺なんだ消え去れ」
「いや俺皮剥くとか面倒だし時間かかるし苛々するから」
「知るか」
「いやホラ、ハゲ、お前手黄色いし、丁度いいだろ」
「何がじゃ!」
「弟の特権かぁ…じゃあフラッシュ、お兄ちゃんが食べさせてあげよう」
「いらん!! クイックにやれクイックに」
「お断わりだ。食うのは自分でする」
「全部自分でやれやバナナ野郎」
「フラッシュー、もう一個ー」
「喧しい」
「お兄ちゃんにもー」
「おいハゲ、俺にも」
「嫌です失せろ」

「………」
喧嘩を懸念して見守っていたエアーマンが、実現しそうな現状に再度溜め息を
吐いた。それを聞き付けたバブルマンが、次兄にのんびりと声をかける。
「まあ、喧嘩になったら、そしたら割って入ればいいじゃん、ね、兄さん?」
「……そうだな…」
未だ止まない会話を聞きながら、片方は諦めたように、もう片方は面白がる
ように、そして二人ともがどこか微笑ましげに視線を向ける。
二人が見る先、彼らの兄弟機が賑やかに戯れあっていた。
戯れも止まない会話の喧騒も、そしてその先で待っている喧嘩も。
何のことはない、いつもの日常の姿がそこにあった。



おわり
09年11月18日 更新

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ