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「焼き芋食べたい」
ナンバーズの七番目の機体、ヒートマンの声が廊下に響いた。
日差しはまだ暑さを携えていたが、木陰に入れば途端に涼やかな季節の頃。
基地の外にある森は赤と黄色に染まり、見事に色付いていた。


紅葉


ワイリー基地の廊下。
フラッシュマンの部屋の入り口を隔て、部屋側には主人であるフラッシュマンが、
廊下側には腕にいくつものサツマイモを抱えたヒートマンが立っていた。
「ねぇ、焼き芋食べたい」
「よーし、ふざけんな」
「酷くない、その切り捨て方?」
「部屋のドアがんがん叩いておいて出てきてみりゃ人の顔見るなり開口一番に
 自分の願望呟いた奴に何で優しくせにゃならんのだ」
「やめてくれない、一息に言うの?」
怠そうな顔で見下ろしてくるすぐ上の兄機体に突っ込みながら、ヒートマンが
片手をのばしてフラッシュマンの腕を揺らす。
「ねえ、焼き芋食べたい」
「勝手に食えばいいじゃねえかよ」
再度繰り返されるヒートマンの言葉に、しかしフラッシュマンは呆れたような
声で溜め息混じりに言い返した。
「たーべーたーいーのー!」
「ふぅん、で?」
「だからっ…!」
「…………」
「う……?」
持っているサツマイモをきゅ、と抱きしめ、ヒートマンが困ったように兄を見上げる。
冷ややかな兄の顔があった。
この兄の素っ気ない言葉はいつものことなのだが、何となく冷たい雰囲気に
いつものように元気いっぱいに我儘をぶつけるのも気が引けてしまった。
しかし、自分で出来れば苦労はない。自分でやると大概消し炭にしてしまう
からこそ、ヒートマンは器用な兄に頼みに来たのだ。
先程までと打って変わって、小さな声で再度言う。
「……焼き芋食べたい」
「…………」
「…………焼いて下さい」
「よく言えました」
俯いて呟いた言葉に、フラッシュマンから満足気な声が返ってきた。
「っ!?」
ヒートマンがびっくりして見上げると、ニヤニヤと口角を持ち上げている兄と目が合う。
「っ…何さフラッシュの意地悪! ハゲ! 馬鹿ぁ! からかったなぁ!?」
「はいはい、人にお願いするときはどーすりゃいーのかの教育的指導ですー。
 ほら、それ貸しな。他の奴らも呼んでこい。ウッドに確認してもらいながら
 枯葉集めさせろ」
「ううぅぅー!」
持っていたサツマイモをひょい、と抱えられる。そのまま先に外に出ていこうと
するフラッシュマンの脚に、ヒートマンがしがみ付いた。
「こーら、何してんだ。早くしろ。火はお前に付けさせんだからな」
ぎゅ、と抱き付いたまま顔を兄の大腿部にうずめ、ヒートマンがぽつりと尋ねた。
「……もしかし…なくてもフラッシュ…今、仕事中だったりした?」
「……さぁな。ただ、気分転換にゃちょうどいいからヤッてやるだけだよ」
だからほら、早くしろ。
ぽん、と頭を撫でられ、フラッシュマンがすたすたと歩き去っていく。
むぅ、とその背中を少し眺めてから、言われたとおりヒートマンは他の兄弟機を
呼びにいった。意地悪な兄が、気分転換などと言いつつ自分の頼み事を聞いて
くれるのを嬉しく思いながら、緩みそうになる頬を誤魔化すように広間にいた
長兄に抱き付く。
「わ!? どうしたんだい?」
「焼き芋焼くから、みんな来いってフラッシュが」
「へえ? 分かった。……けど、何かいいことあったのかい、ヒート?」
「何でもないよ? ねー、他の皆も早く!」
楽しそうに言う七男に不思議そうな視線を注ぎながら、他のナンバーズが腰を上げる。
基地の外、紅葉し赤と黄色に染まった森の傍には、その中に鮮明に目立つ青が待っていた。



おわり
09年10月8日 更新

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