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たぐまり絡んだコードを外し、溜め息を吐く。そのコードを照らす光を追い
ふと外を見ると、時刻は夜中だというのにやけに明るいことに気が付いた。
もうそんな季節か、と思いながら窓を開けると、乾いた涼やかな風が吹いてきた。
目の前の景色とその風にあることを思い出し、くるりと振り返りドアへ向かう。
こんな日のこんな時間には、あの場所にいた筈だ。そう思いながら。


夜更かし


「よう、やっぱりいたか」
「……フラッシュか」
基地にいくつかある昇降口のひとつ、排気管などが張り巡らされた普段誰も
こないようなその空間に大柄な青い機体、エアーマンが壁に寄り掛かるように
座っていた。
その次兄に声をかけたのは、同じく青い機体である六男のフラッシュマンだ。
片頬を少しだけ持ち上げた彼は、次兄の傍に歩み寄り、柵にもたれ掛かる。
彼らがいる場所は空に開けており、月の光に照らされて夜中ながらひどく明るかった。
穏やかな赤い目が、ゆっくりと青い色を捕らえた。
「どうした、こんな時間に?」
「んー? や、獲ってきたデータ整理してたんだが、何か外がえらい明るいと
 思ったら案の定いい月が出てたからよ。まぁ、ちょいと月見にな」
「そうか」
「それに」
「?」
「兄貴が、ここにいると思ったからな」
からかうように口角を片方持ち上げてフラッシュマンが次兄を見やると、
エアーマンは僅かに目を細めて笑い、月を見上げた。
「いい月だな、兄貴」
「ああ」
今宵は満月だった。
いつだったか、今日のような夜にたまたま近くの廊下を通り掛かったときに
フラッシュマンは見つけたのだ。この昇降口に座り、月夜にぼんやりと浮かぶ
兄の姿を。そして何をしてるのかと問い掛けたら、月を眺めていた、と次兄は
静かに答えた。ここは月を眺めるのに丁度いいのだ、と語った兄の赤い視覚
システムは、今日のように酷く穏やかな光を湛えていた。次兄は存外、風流な
ことを好む質だ。
「これで酒がありゃ言うことねーんだけどなぁ?」
楽しそうに言う六弟の声に、エアーマンは嗜めるように視線を向けた。
「もう夜中だぞ、馬鹿なことを言うな」
「お堅いねぇ…なぁ、じゃあ今度、も少し早え時間によ、月を肴に飲もうぜ?」
「…そうだな、それならいい。博士もお呼びしよう」
「おぉいいねぇ、あーでも間違いなく他の奴らも参加での宴会になりそーだな」
「ならばいつもと変わらんな」
「はっ、確かに」
穏やかに静かに、しかし楽しそうに青い二人は肩を揺らす。フラッシュマンは
月光を浴びたエアーマンの装甲を眺めながら、もしも次があるならばカメラを
持ってこよう、とこっそりメモリに刻んだ。
いつか見た姿も、今日見た姿も、月の光に鮮明なまでに浮かぶその姿はいい
被写体になる、とフラッシュマンは思っていた。
濃い青に囲まれた、上二人だけが持つ特徴的な赤い視覚システムが、きっと月に
よく映える。
月を背にした兄を撮ろう。
口に出したら絶対に断られるだろうと分かっているので、フラッシュマンは
そのまま言葉にせず、ただ次兄と穏やかに月見を楽しむことにした。
六弟がそんなことを考えているなど露知らず、エアーマンは父や兄弟機を思って
笑みを零している。
生真面目な次兄のたまの夜更かしに、徹夜常習犯の六男が付き合う。乾いた
涼やかな風が二人に吹いてきた。月は煌々と昇降口にいる二人を照らしていた。


おわり


09年9月10日 更新

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