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「お前、何やってんの?」
「苺味のかき氷食ってる」
「見りゃ分かるわ」
「なら聞くんじゃねぇよ」
ぐったりと椅子に機体を沈めたフラッシュマンが、怠そうにつぶやいた。
手に持ったかき氷がどんどんと溶けていく。太陽の光が強く降り注いでいた。


それぞれ


椅子に座るというより横たわる弟の姿を、浮き輪を脇に抱えたクイックマンが
呆れた目で見下ろしている。強い陽射しをその機体に浴びながら、彼らはしばし
無言で見つめあっていた。お互いがお互いに対して「こいつ何してんだ」という
顔をしている。

ワイリーと、彼の息子であるナンバーズは今海に来ていた。
破壊任務でも何でもなく、ただ単に、暑さにうんざりしたワイリーが遊びに
いこうと息子たちに提案した為だ。
バブルマンはとっくに海の中をたゆたっており、機体が檜で出来ているために
潜れないウッドマンと水が苦手なヒートマンはボートで遊んでいる。
エアーマンは、砂浜で山を作ってはドリルで粉砕して遊んでいるクラッシュマンが
ボムを使いださないかさり気なく見守り、メタルマンはワイリーとともに
海の家に焼そばを買いに行った。

そして残りの二機体はというと、フラッシュマンは暑さに辟易して涼を求め、
クイックマンは青い弟機体が何故楽しもうとしないのか疑問でならないとそれを
不思議そうに見ていた。
「泳がないのか、ハゲ?」
「暑くて怠いんだよ、放っとけデコ。俺の水着鑑賞タイムを邪魔すんな」
「泳げば涼しいだろうがこのむっつりハゲ」
「そんな元気はねぇ、俺は繊細なんだっつったろうが。むっつりで結構。って、 …いいから行けよ」
「なぁ、泳ごうぜ」
「人の話を聞きましょうねおデコさん?」
「泳げないのか?」
「バブル兄貴以外俺等全員泳げねぇだろうがよ」
「浮き輪あるぞ」
「俺はかき氷食ってお姉さん方を眺めててぇんだ。…放っといて行けばいいじゃ
 ねぇか、クイック?」
「……お前が来る気になるまでここで見てる」
「何でだよ」
げんなりとしながらフラッシュマンはクイックマンから視線をそらし、かき氷の
スプーンを口へと運んだ。フラッシュマンの口内に心地よい冷たさと甘さが広がる。
存外、この兄には──正確には兄たち、だろうか──人間で言うこどもっぽさが
ある。そう言うところが自分達の父とよく似ている、とフラッシュマンは思うが
如何せん妙に構って欲しがりなところが少々面倒臭い、と回路の中でごちた。
不機嫌そうに、クイックマンの性格にしては珍しく待っている。その視線を浴び
フラッシュマンは徐々に居心地が悪くなっていった。
「……わーかったよ、行ってやるから、んなに睨むんじゃねぇ」
「!」
視線に折れて、フラッシュマンはかき氷を脇において溜息を吐きながら立ち
上がった。クイックマンは漸く重い腰をあげた弟にやっとか、という顔をし
ながら「早くこい!」と駈けていく。砂浜で遊んでいた次兄と五男も誘って
海へと入っていった。それをのんびり後ろから歩いて眺めながら、フラッシュマンは
やれやれと溜息を吐きながら口角を片方あげる。それぞれで楽しんでいたことを
全員で、と望む姿も、兄は父とよく似ていた。父と長兄がまざるのもすぐだな、
と思いながら、フラッシュマンは引いては打ち寄せる海へと足を踏み入れた。


波間に楽しそうな笑い声と悪態と、徐々に怒号が、そして爆笑する声が響き渡る。
残されたかき氷は完全に溶け切ってしまった。太陽の光が、変わらず強く降り
注いでいた。


おわり


09年8月5日 絵更新
09年8月7日 短文更新

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