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「それでね、通常の粒より身が大きくて、成分も濃くてね、効果も数倍なんだって」
「はー」
「だから凄くいいと思ったんだよ。その分お値段も高めだったけど、損はないなぁって」
「ふーん」
「なのにニードルがすっごく怒ってね、額のトレードマークむしられてもいいなら
 実行しろって怒られてさぁ、そんな言い方ないと思わない? 話も聞いてくれなくて」
「へー」
「その宣伝から15分の間だけ特別に増量なんてキャンペーンがあったのに、物凄く
 殺気放ってくるから結局だめでさぁ」
「ほー」
「……ハード相手に愚痴ったとこで、壁に話してるのと同義だぞ、マグネット」
相づちがあるだけが壁とは違う点だ。
そう続けて、ジェミニマンはリビングに転がるハードマンと、その大柄な紺色を
マッサージしているマグネットマンを見やる。
よく晴れた、平和な午後の時間。
ジェミニマンは読んでいた雑誌を閉じて紅茶を傾けた。少し温くなっている。
「あージェミニも聞いてよー」
「聞こえたよ」
ハードマンの背をぐいぐいと押しながら訴える紅色に、ジェミニマンはつれなく返した。
ハードマンは最早、否、元々会話する気はないのかそろそろ「うー…」とスリープに
入りそうな唸り声を上げている。やれやれとジェミニマンが首を振った。
「なぁ兄弟、頼むからいい加減俺たちがロボットだって分かれよ。知ってるだろ?」
「分かってるよそんなことー」
「ああ、じゃあ言い方を変えようか。理解しろ、ロボットってことを。機械に
 健康食品はいらないんだよ」
「でもさージェミニだって美顔器持ってるじゃんー」
食い下がるマグネットマンにため息を吐くと、リビングのドアを控えめに開けて
スパークマンが室内を覗き込んだ。
「マグネットどこー?」
「ん? どうした、スパーク?」
「あのね、あたらしく請求書がきてね、ニードルがマグネットよんでこいって」
発せられた内容に、ジェミニマンがひくりと頬を引きつらせる。マグネットマンは「?」と
いった様子で首をひねった。
「えー? いつのだろ、てか今すぐじゃなきゃダメ?」
「ニードルのひょうじょうがなかったから、たぶんげんかいだから、はやくいったほうがいいかも」
スパークマンがいうやいなや、ジェミニマンは今日は何もしてないはずのシャドーマンが
顔を蒼白にして廊下を逆走するのが、空いたドアの向こうに見えた。
誰かさんが中々にお怒りらしいのが、嫌でも分かる。
ジェミニマンがぼそりと呟く。
「…おいマグネット早く行けよ…頼むから………」
「ちぇー分かったよ」
いまいち空気が伝わってないのか、のほほんとした雰囲気のまま、マグネットマンが
リビングから出てスパークマンと手を繋いでいった。
「………さて」
ジェミニマンは考える。
タップマンとスネークマンは、二機体での任務でいない。シャドーマンは逃亡。
となると、ぶち切れた長男を止めるのは消去法で、あの次兄よりものんびりした
スパークマンか、自分か、それか─────。
「…………」
否、最後は却下。
傍で幸せそうにいびきをかきはじめた濃紺に、ジェミニマンは心底うらめしそうな視線を送った。



おわり


12年4月28日 更新

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