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風が乾きを見せ始めた。
暑く鋭い日差しで生じる影の濃さは変わらないが、風がすっきりとした涼やかさを携えだす。
空がぽかりと高くなり、少しだけ下がりだした気温に、移ろう季節を感じた。
風が吹き抜ける。






「いい風だった」
「ん、サンキュ」
荒く排気を繰り返す、鮮やかな赤い色をした弟機体に声をかける。
熱を持っているのだろう両膝に手を置いて、走り終えた機体を冷まそうとしている姿に
エアーマンはゆったりと歩み寄った。
「待機中は欠かさないな」
「そりゃ、トレーニング欠かしたらそれだけ遅くなっちまうからな」
俯き気味の顔を漸く上げて、鮮やかな赤い色をした機体、クイックマンが次兄機体を見上げる。
大柄な濃紺の中、落ち着いた紅が緩く細まり笑みを浮かべた。
「ようエアー、今帰りか?」
「ああ、今し方帰着したところだ」
今更のように、軽く挨拶を交わす。
からりと晴れた空の下、エアーマンとクイックマンが立っていた。
待機中のランニングを終えたクイックマンの周りは、彼の発する熱でより温度が高くなっている。
その熱が、そして走っているときに纏っていた風が、赤が誇る速度を物語っていた。
その風を思い返し、エアーマンは一つ頷く。
「随分スピードを上げた」
「へへ、だろ? まぁまだ速さが足りねぇけど」
「頼もしいな」
「エアーに言われると変な感じだなー」
んー、と機体をのばし、クイックマンが空を見上げる。仲間内で誰よりも頼られる
存在の次兄にそう言われ首を傾げるものの、しかし万更でもない様子だった。
「けど、空気がすっきり乾いてきたからさ、走りやすい」
「そうだな。空気は秋に移りだしている」
「しかも天気もいいし、レコードとは行かないけど中々いいタイムだったんだぜ」
暑いと機体暖める必要あんま無いからいいな!
「そうか、この季節はお前に適しているんだろう」
「やっぱトップギアになりやすいからなー」
「なるほどな。それに、今日のような中、お前の姿はよく映える」
「……、はぇ!?」
予想外な方向からの一言に、クイックマンから妙な声が漏れた。
「ん?」
「…………」
「…………?」
そんな四弟の反応に、エアーマン自身も自分の言葉を反芻してその意外性に目を瞬く。
「…おっと」
次いでくつくつと喉を鳴らし、「すまん、俺らしからぬ発言だったな」と肩を震わせた。
「フラッシュのが移ったらしい」
穏やかな低い声に、照れ隠しのように、少し複雑そうにクイックマンは次兄から視線を外す。
「気を悪くしたか? ならば謝る」
「……や、別にいーけどさ、何か照れるじゃん。んなこといわれたら。でも、
 何で今日みたいな日が俺に似合うわけ」
「フラッシュが言っていた」
「?」
「青い空の下、お前の赤はよく映える。そのせいか、まるで目に見える赤い風の
 ようだと言っていたことがある。だからだろうな。俺にもそう思えた」
「! ……ふーん」
「そうだ、それにあいつも、お前の速さを褒めていたぞ」
「……!!」
次兄の話に、どう反応していいか分からずクイックマンはふいと顔を背けた。
何か誤魔化そうとするように、ブースターの出力を上げる。
「…も、もうちょっと走ってくる」
「そうか」
今し方ランニングを終えたばかりの筈の四弟少し赤い頬には触れてやらず、
エアーマンは穏やかに笑みを浮かべた。
いつも口喧嘩ばかりする六弟からの予想外の称賛に居づらくなったのだろう、
そう思いながら、地面を蹴るクイックマンの背を見送る。
乾いた空気を切り裂くように、その赤はあっという間に小さくなった。
努力家で自信家で、速度に誇りを持っている彼は称賛に慣れているようでいて存外そうでもない。
まぁしかし、普段ひねた発言ばかりの者から評されれば仕方ないかとも思い
エアーマンは小さく喉を鳴らした。



青い青い空の下、からりと乾いた空気の中、一陣の赤い風が吹き抜ける。
その風を感じて、エアーマンは心地よさそうに目を閉じた。




おわり


11年9月22日 更新

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