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日が昇るのが早くなってきた。
春と夏の狭間。
夜は冷えて水気を帯びていた空気が、昼にはからりと乾いて暑いくらいに温度があがる。
機体の温度を上げるのが楽になりはじめた。
オイルの滑りがよくなる。スプリングがよくのびる。ブースターの起動が早くなる。
強まる日差しに、森の緑や足元の影が濃さ増す。
春の妙な柔らかさを吹き飛ばすように風の強いこの季節、その風をさらに切り裂いて
駆け抜けるのが心地いい。
潤いを増し勢いづく空気を置き去りにして、地面を強く踏みしめた。




「……………何してんだ」
「綺麗さっぱりこっちの台詞だ」
憮然とした声を上げるフラッシュマンに、クイックマンが冷静に返した。
ウッドマンが世話をする森の中。
頭上の枝では若葉がきらきらと朝日の光を返し、時折吹く風に揺れる。
零れた日差しが降り注ぐ足元の草も、柔らかなその身をそよがせ、朝の訪れに嬉しそうに露を煌めかせた。
そんな地面に横たわるフラッシュマンの傍にしゃがみ、六弟の頬を摘みながらクイックマンは青い色を眺める。
毎朝の日課のランニング途中、基地の傍の森の中。
少し開けた草地に、クイックマンはあろうことか機能停止し倒れているフラッシュマンを見つけたのだ。
頬をいじる赤い手に不機嫌そうに眉間にしわを寄せるが、フラッシュマンは
しかし動こうとしない。そんな弟に、クイックマンは呆れたように排気を吐いた。
「で。何してんだよ、行き倒れか」
「違います。機体冷ましてただけだ」
「はぁ、とっくに冷えきってる気がするぞ。頬冷たすぎだろ」
「つーかいい加減離せ。つねんな。いてーんだよ」
言う割に手を払おうともしないフラッシュマンを不思議に思いながら、クイックマンは
草地に完全に腰を下ろす。くったり動かない青は、表情もどこかだるそうだった。
こんな所で倒れている弟機体は、そう言えば任務に赴いていたはずだがとメモリを遡る。
「お前、帰還してんなら任務報告はやったのかよ?」
「んー、やってある。報告ファイルは博士の机にチップ置いてきたし、とってきた現物
 渡すにゃ先に洗浄がいるからその後だしな。やるこたぁやった」
「ほぅ。で、お前は何でここで寝てんだ。機体冷やすだけなら基地でいーだろ」
「いやー、早い話マイナスイオン補給」
「はぁ?」
「敵さんのウイルスが中々でな。軽く熱籠もってよー。んで帰還してみりゃ時間は夜で、
 森は結構冷えるし気持ちいいしでよ。ついふらっとな」
「ふーん。馬鹿?」
「っせーな殺すぞ」
さらりと言うクイックマンに、フラッシュマンがチッと舌を打った。




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