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待ち合わせ
脚部の出力を限界まで上げる。
ブースターが火を吹く感覚に機体を任せるがまま、風を切る。
それと同時に、群れる雑魚を切り裂いていく。
隣や背後の仲間が被弾しようと、後退しようと、自分に最優先されるのは周りの
のろまなクズどもを一体でも多く壊して、数を減らすこと。
そして突破口を開き、よりその先、目指す目的へと仲間を誘う事。
前衛の、最前線が自分の立ち位置。
かつて、破損した仲間に手を伸ばそうとして、しかしはらわれたことがメモリにリフレインする。
───ぼろぼろに煤けた機体で蹲っていたというのに、伸ばした手をはらった手は
力強さを残していた。そのまま視線だけが上げられて、目付きの悪さが更に際立つ。
ギラついた、そしてなぜだか苛ついた視線が突き刺さり、歯噛みしながら唸るように告げられた。
「何してやがる」
こちらの手をはらった手が、膝をついて様子を伺おうとしていた自分の顎にかかる。
ぐ、と引かれ、指が頬に少し埋まった。
「顧みるな」
言われた言葉に、意味が分からなくて一瞬目を見開く。
なぜだか急かすような声は苛立ちに低く、顎を掴む手には力が籠もっていた。
「振り返るな」
硝煙の中、切り付けるようなアイセンサーが真っすぐにこちらを睨み付ける。
「前を見てろ」
そんな状態で何を言っている、咄嗟にそう返そうとした。
「進め」
苛立ちの表情が、いつも見せる不適な笑みへとかわる。釣り上がる片頬に、この場に
そぐわぬそれに、しかし言おうとした言葉は霧散した。
「止まるな」
釣り上がった唇が、細まるアイセンサーが、不適な笑みが深くなる。
回路がジリジリと電流で弾けるような感に襲われ、ぞくぞくと何かが感覚系統を駆け抜けた。
芯まで痺れ、しかしすっと何かが張り詰める。
「行け」
弾くように手を離され、次の瞬間には自分はブースターの出力を最大にして、
何もかもを背にして駆け出していた。
周りの景色は、ただの色と化して形を失う。
ただ目の前だけが、鮮明に見えていた。────
その端的な、しかし何より重要な言葉が、この背を強く強く先へと押す。
ブースターの上がる熱に、少しセーフティが反応するが切り捨てた。
自分の役割。
前衛の、最前線。
敵を排除して、そして突破口を開き、よりその先、目指す目的へと仲間を誘う事。
そうして追い付いてきた仲間に、遅いぞと言ってやって自分は彼らと笑うのだ。
おわり
10年11月23日 更新