Main2

□2
20ページ/31ページ





外がいきなり瞬くように明るくなる。
数瞬で消えるその少しあと、漸く届く音が聞こえた。
圧倒的な速度の差。
目指しいつか届く先に、コアの奥深く闘志が燃えた。


閃光



「僕雷きらーい」
「あ、そうなの?」
クイックマンとの共同任務から帰還した途端、ヒートマンはぼやくように言った。
二人の兄にE缶を持ってきたウッドマンが、それを聞いて意外そうに首を傾げる。
外では雷が時折轟いていた。
「だって、煩いし。ウッドは?」
「僕は、そうだなぁ、怖いと思うけど、でも綺麗だなぁとも思うよ」
「へぇ…何で怖いの?」
「僕は檜でできてるから、当たっちゃうと燃えちゃうしね、逃げようにも雷は早すぎるし、
 クイック兄ちゃんと違って足遅い僕じゃ逃げられないから。だから怖いかな」
「えー、けどさ、ウッドには鉄壁のリーフシールドがあるじゃん」
「あー、うーん、リーフシールドで防げるくらいのエネルギー量ならまぁ、何とか
 なる、の、…かなぁ? 競り負けたらアウトだけどね」
よく分かんない、と言い、ウッドマンが苦笑いを浮かべた。七兄の横に腰を
下ろしながら、けど、と続ける。
「夜空にさ、稲光が走るのあるじゃん? あれは綺麗だなーと思うよ。フラッシュ
 兄ちゃんがその瞬間を撮った写真を見せてくれたことがあるんだ」
「わ、何それ! 僕見せてもらってない! フラッシュったらだからハゲなんだよ、けち!」
「…おいヒート、怒ったとこでここにそのハゲはいねーぞ。あいつも任務だ」
ぷんすかと怒るヒートマンに、クイックマンがE缶を傾けながら突っ込みを入れた。
どっかりと腰を下ろしたソファで、そういえば、とその長い足を組む。
「雷ってカメラで撮れんだな」
「あ、うん、何かね、雷の自体の速さが光の速度ほどじゃないから、カメラに
 とらえることが出来るんだって」
「ふーん」
「でも、光を撮るっていうのは無理みたい。フラッシュ兄ちゃんが言ってたけど」
「え? 何それ、よく分かんない。もう、フラッシュの言語構成エリア、ややこし
 すぎるんだよね、基本的にさ」
七男が不満そうに言うと、末弟はえーと、と言葉を探した。
「光を撮るっていうか、進んでるところを撮るってこと。雷は進んでるとこ動画でも
 撮れるけど、光の進んでる瞬間なんて、物理的にとても無理だって、フラッシュ兄ちゃん笑ってた」
「んー? 分かったような、わっかんないような…?」
「へぇ……」
柔らかい笑みで言う末弟に、七男はお手上げ、と言うように背もたれに機体を預けた。
同じく又聞きになる説明を受けたクイックマンはしかし声を漏らし黙り込む。
弟二機体をよそに、視線に鋭さが増した。
ざわりと、回路がわななく感を覚える。

光の速度。その向こう側。より速いその先が、自分の目指す高み。
自分の目標を妨げる最たる存在が、両手を上げて完全に降参するような、今は未だ遠い場所。
その趣味の品、況してや特殊武器を使ったとて不可能だと、言わしめた領域。

末弟の声が反芻する。
───光の進んでる瞬間なんて、物理的にとても無理だって、フラッシュ兄ちゃん笑ってた───
「…………!」
目指す先がよりその魅力を上げた気がして、クイックマンは任務の疲れも忘れて立ち上がる。
無言で立ち上がった四兄に、ウッドマンが「どうしたの?」と不思議そうに見上げた。
「……ちょっとその辺走ってくる」
「えええ!?帰ってきたばっかじゃん!」
ヒートマンの驚く声に、しかしクイックマンはひらりっ片手を上げる。
「博士への報告よろしく頼んだぞ、ヒート」
「ねえ、可愛い弟のお願い。頼むから人の話聞こうよ、たまにはさ」
時間が惜しいとばかりに去っていく赤い背に、ヒートマンがぼそりとぼやいた。
ウッドマンが心配そうにするが、クイックマンの姿ははもう廊下にもない。
ただただ走れる空間を求めて、クイックマンはすぐに外に出た。

自分が何より目指す先。
どんなに性能のいいカメラにも、時を止める弟機体にも誰にも、捕らえられないその速度。

空が再度瞬くように明るくなる。
数瞬で消えるその少しあと、漸く届く音が聞こえた。
圧倒的な速度の差。
それを超える、さらなる速さ。
求め藻掻き手をのばす先を思い、クイックマンのコアの奥深く、闘志がより強く燃えあがる。
稲光に照らされる赤は、閃光の中あまりに鮮やかに見えた。




おわり
10年8月10日 更新

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ