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詰まる必要はない、詰める必要はない。
近づく理由はない、近づく理由がない。
それぞれには相応の立場があるのだから。
そう、思っていた。


噂通り


「あー、ここいい、このアングルと高さいい感じ」
「は、了解しました、ではタイムストッパーをどうぞ、フラッシュマン様」
「ん」
そう声がした次の瞬間、辺りに閃光が走った。
凍り付くような独特な音と共に、周りにある全てのものがその動きを止める。
その間に、時を止めた張本人───自身の特殊武器を発動させたフラッシュマンは、
手に持ったカメラのシャッターを切った。
幾度かその音が鳴ったあと直ぐに時間が流れを取り戻し、止まっていたものが動きだす。
写真を撮り終えたフラッシュマンは満足気に小さく笑い、次いで、くるりと上を
見上げ、先程言葉を交わしていた機体に声をかけた。
「すまねぇな、アイセンサー眩んでねぇか、カミナリゴロー?」
「いえ、大丈夫です」
少し心配そうなフラッシュマンを見下ろしながら、彼に名前を呼ばれた機体、
カミナリゴローは創造主の名を冠するナンバーズの一機体に言葉を返した。
DWN,010・エアーマンの部隊に属するカミナリゴローは今、自身の隊長の弟機体
であるフラッシュマンを自身の雲のような飛空装置にのせ、空高くを漂っていた。
「わざわざわりぃな、俺の趣味に付き合わせちまって」
「隊長の、エアーマン様のご命令ですので、どうかお気になさらず」
二人は、フラッシュマンの趣味である写真を撮るためにここにいた。
空高くから写真を撮ることは単独では無理なため、フラッシュマンは次兄に
頼み、わざわざカミナリゴローを一体貸して貰ったのだ。しかし、常に流動する
風の中で完全に留まる事は出来ないため、フラッシュマンはこうして気に入った
アングルを見つける度に、動かないようタイムストッパーを使っては写真を撮っていた。
「次はどうされます、まだ撮られますか、それとももう帰還致しますか?」
「んー、そーだな、結構撮れたしな…お前は?」
「は…と言いますと?」
次の命令を聞いたつもりだったカミナリゴローは、フラッシュマンから返された
予想外の言葉に問い返す。
この青い機体は、ナンバーズの中でも殊に部下に優しいと自分達部下の間で
有名だったが、どうにも自分の隊長とは話し方も接してくる距離感も違っていて
慣れない、とカミナリゴローは思う。上役の命を聞くのが部下の務めだという
のに、なぜ彼は部下に質問するのだろうか。
「お前は、もう基地に帰りてえか?」
「フラッシュマン様の、ご随意に」
「……真面目なやっちゃなあ…流石兄貴の部下っつーか何つーか……」
他部隊の部下機体から返されるどこまでも真面目な言葉に、フラッシュマンが
どこか感心したような声をあげ、小さく肩を震わせた。
「お褒めに預かり光栄です」
「ん、じゃ、付き合わせんのもわりいから、もう帰っか」
「了解しました」
そう言うと、カミナリゴローは滞空していた飛空装置の推進システムを動かす。
肩を震わせるフラッシュマンに、なぜ笑うのか、と少し不思議に思ったが、
命令を実行するために彼は青い機体から意識を逸らし、ワイリー基地へと進路をとる。
青い空を行く中、青い機体の笑い声が小さく響いた。


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