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かつりかつりと足音が水を伝って聞こえる。その音に、今日は誰かなとぼんやり思った。
眩しく輝く光のカーテンを機体に心地よく受けながら水面へと水を蹴り、しかし
それに反してちらりと水底へ視線を向ける。幻想的ともとれる光で描きだされる
水面の文様に、自身の影が踊るように底にいた。もうじき増えると思うと自然笑みが零れる。
こぽりと泡が浮上していった。



巻き添え



「やぁ、今日はお前かい、クイック」
「………よお」
少し不本意そうに、クイックマンが片手をあげて水面に顔を出したバブルマンに挨拶を返す。
連日の猛暑に兄弟機がぽつぽつ訪れる三兄の特設プールに、今日はバブルマンの
連番の弟である四番目の機体、クイックマンが顔を出していた。
「見た感じそうでもなさそうだけど、流石にお前でもこの暑さにバテたのかい?」
「違う」
「?」
バブルマンの問いに、しかしクイックマンは否定を返す。
この弟機体は性能上機体温が高めなため、確かに暑さには比較的強かったはずだ。
しかし、ならば何故他の兄弟機が涼みにくるここに来たのだろうとバブルマンが首を傾げる。
涼みに来たのではなく何か用だろうか。そう問おうとすると、クイックマンは黄色い
聴覚器をトントン、と指で叩いてみせた。
「……?」
「……また通信切ってただろう、バブル」
「げ」
しまった、とバブルマンが自身の悪癖への指摘に肩を震わせると、クイックマンは
呆れてため息を吐く。プールサイドに腰掛け、ぱしゃりと脚部を浸した。
どうやら誰かからの呼び出しらしいが、しかし何となく嫌な予感がいきなり襲い、
バブルマンがクイックマンをそっと見上げる。
「えー…っと、何の呼び出しかな、クイック…?」
あはは、と乾いた笑いを洩らすバブルマンに、クイックマンは「その様子じゃ
分かってんだろーが」と呟いてみせた。
「あー、呼び主は…───」
「───メタルに決まってんだろ」
最後通告のように告げるクイックマンに、バブルマンはあっちゃー、と零しながら
片手で顔を覆い天を仰いだ。
「あいつ笑顔がかたかったぞ。大方想像つくぜ、どーせまぁた無駄遣いしたんだろ、バブル?」
「えへ、マネーゲームって怖いねぇ」
「ふうん。けどバブルにとってそれよりもっと怖いのが探してたぞ」
「うーん、けど、クーリングオフすればなんとか」
「俺にじゃなくてメタルに言えメタルに。言っとくが、俺はこれ以上メッセンジャー
 する気はないからな」
困ったなぁ、と苦笑いするバブルマンに、原因はあんただろうがとクイックマンが
再度ため息を吐く。すると、廊下からまたも小さく足音が聞こえ、バブルマンが肩を跳ねさせた。
「あ、やば!」
「ん? おい、ちょっ…!?」
垂らしていた脚を掴まれ、どぽん、と音を立ててクイックマンが水中に引きずり込まれる。
綺麗に縦に落ちたため、あまり大きな音は立たなかった。しかし廊下にいたのが
長兄なら聞こえてしまっただろう、急いでバブルマンはクイックマンを後ろから抱えて
海と繋がる太いパイプに向けて泳ぎ始める。鼻と口を手で覆い、クイックマンが
三兄に通信を送り付けた。
『ちょっと待てバブル、どこ行く気だ、俺は関係ないだろうが!』
『乗り掛かったなんとやらって奴だよ、かたいこと言わない言わない。僕がここに
 いたこと知ってるお前を置いていくわけにはいかないじゃない』
『俺は無関係だっ!』
『まぁまぁ、綺麗な珊瑚礁ついでに見に行こうよ。こないだフラッシュと行ったら
 気に入ってくれた場所があるんだ』
『知るかあああ!』
帰ってくる通信に笑みを返しながら、水底へ水底へとバブルマンは進むことをやめない。
かつりかつりと足音が水を伝って聞こえる。その音に、上にいるのは果たして
誰だろうかとバブルマンは思った。
眩しく輝く光のカーテンを機体に心地よく思う暇なく受けながら、水底へと水を蹴り
しかしそれに反してちらりと水面へ視線を向ける。見えた赤い機体の影に焦って
視線を向かう先に戻すと、幻想的ともとれる描きだされる水面と光の文様に、
自身の影と、巻き添えを食らった抱えるもう一つの影が踊るように底にいた。
もうじきまた増えると思うと、困ったように笑みが零れる。
こぽりと泡が浮上していった。




おわり
10年7月25日 更新

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