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外が煩い。
空気が重い。
ただでさえあまりないやる気が、空気の重さに更に潰されてなくなってしまう。
機体自体が、じっとりと、何かに幾重にも覆われ縛り付けられるような、そんな
錯覚が浮かんではデリートする。
不快指数とはよく言ったものだと、ぼんやりとそう思った。



得手不得手



「ヒート兄ちゃん、大丈夫?」
「んー? 平気平気」
「嘘吐くんじゃねえこのチビ」
ぐったりとソファに横たわっていたヒートマンと傍に座っているウッドマンの
背後から、呆れた辛辣な声が飛んだ。
しとしとと降り続く雨とその湿気にダウンしているヒートマンは、すぐ上の兄に
顔すら向けずに切り返す。
「チビとは何チビとは。燃やすよ」
「そんな元気もねぇくせにほざくな」
軽口をかわす二人に、兄ちゃんたちってば、とウッドマンが楽しそうに肩を揺らした。
この手の戯れ合いは一見険悪そうに見えもするが、慣れてみればただただ仲のいい
ことのあらわれでもある。
それにしても、と、ウッドマンはつい、と天井を仰いだ。
「こんな時に空調壊れるなんて、ついてないよねえ」
「だよねー、だーよーねええええ……」
ウッドマンの呟きに、ヒートマンが怠そうに手足をじたばたと動かして機体全体で
同意を示す。しかしやはり辛いのか、すぐにぴたりと動かなくなった。
彼らが拠点としているワイリー基地。この基地のメイン空調が、あろうことか
この不快指数が酷く高いときに壊れてしまったのだ。
そのため水気に弱いヒートマンが、オフということもあり無理する必要もないため
真っ先に音を上げたのだった。
突っ伏したまま、うー、と唸るヒートマンをフラッシュマンはぽんぽんと撫でる。
「おら、騒ぐな余計に暑苦しい。おとなしく待ってろ、今ジョーたちつれて
 メタルが使命感に燃えながら直してっから。エアー兄貴ももーすぐ帰ってくるってよ。
 それまで何とか耐えとけ、ヒート」
「無理、マジ無理、もう無理、超無理」
「うーん、困ったね…僕も、メタル兄ちゃんを手伝った方がいいかな?」
「あ、嘘嘘、耐えれるよ、ウッド。大丈夫だからね」
「お前な……。まあ、ウッドも行くことねーよ、あのブラコン野郎、燃えまくってて
 俺すらお払い箱食らったからな。そのうち直るって」
他には余り見せない柔らかな笑みを浮かべながら、フラッシュマンがウッドマンに言う。
それを横目で眺めながら、ヒートマンは回路の中で心配かけてごめんね、と呟いた。
それに、と続ける。
雨。湿度。空気の潤い。
これら自分の苦手とするものは、この弟の好むものだ。
本当は今ですら、末の弟機体が気持ちよさそうにしているから、辛いのだと
言葉には出したくないのだけど。
それでもかけられる心配は心地よくて、ついつい甘えてしまっている。
自身も兄機体にあたるのだが、こんなときは兄らしくなれなくてごめんね、と
ヒートマンは思う。気まずさにそっと伺い見れば、ヒートマンにとって唯一の
弟は、気にしないで、と優しく笑っていた。

ああ、本当にごめんね。
明日晴れたら、森へ一緒に散歩にいこう。
湿度は高いだろうけど、気を遣わせてしまったお詫びをしたいから。

ウッドマンの世話する森への兄弟機の同行は、この末の弟はとても喜ぶ。
すぐ上の兄も引きずっていこう。
ヒートマンはそんなことを考えながら、空調が動き始めたらしい、乾いて冷え始めた
空気が流れ込むのにゆったりと意識を向けた。
次いで、他ならぬ自分がへばっているために迅速に直してくれたのだろう長兄にも
お礼を言わなくてはと思う。
働かない思考回路で、それでもぽつりぽつりと考える間、雨の音は少しずつ
静かになっていった。
雲は少しずつ薄くなっていく。雲間からは小さく星明かりが漏れていた。





おわり。
10年6月30日 更新

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