Main2

□2
10ページ/31ページ




手を伸ばしても届かない。
望んだところで馬鹿馬鹿しい。
ただまばゆいそれに、憧れるだけ。


羨望


よく晴れた空の下、しかし未だ冷たい風が吹く中、ワイリー基地の屋上で
ごろごろと寝転がっているフラッシュマンと、傍に立ってそれを見下ろしている
クラッシュマンがいた。
「………弟よ、何やってんだ?」
「……よう兄弟、見て分かれ、見たまんまだ」
「分からないから聞いてるんだ」
「昼寝しようとしてんだよ、馬鹿ハト」
「馬鹿じゃない、フラッシュのハゲ。全く、どこに行ったのかと思えばこんなとこで……」
「……? あんだよ、何か用か?」
「いや、特に用はないんだけど」
「何だそりゃ」
軽口を交わしながら、クラッシュマンが寝転がっているフラッシュマンの横に
腰を落とす。
「何で部屋じゃなくてこんな所で寝てんだ?」
「気分だ、気分。最初は空撮ってたんだがよ、雲が一つもねえしな。でも何か
 眠くなってきちまったんだ」
最近あったかくなってきたしなー、と続ける弟機体の横に、クラッシュマンは
カメラが転がっているのを視認した。
「ああ、だからカメラがこんなところに」
言いながら、傍に転がっているそれに手を伸ばそうとしたら「触るなよ」と
フラッシュマンがぼやく。次いで片目を開け、傍に座る五兄の首根を掴んで
後ろへ引き倒した。
「わ、こら、何すんだハゲ」
「うっせーよ馬鹿、人の安眠邪魔すんじゃねえ、さっきから喧しい、てめえも寝ろ」
「う、煩かったか、すまん、でも俺寝るつもりは…」
ない、そう続けようとして、クラッシュマンはしかし視界に映ったものに
言葉を途切れさせる。
「……!」
先程の六弟の言葉どおり、雲一つない真っ青な空が広がっていた。感嘆の声を
クラッシュマンが上げる。
「おお、なるほど、これは綺麗だな」
「だろ?」
五兄の声に、フラッシュマンはどこか楽しそうにねむたげな声で返した。
クラッシュマンが片手をかざし、空を掴もうと動かす。それを見てフラッシュマンが
くつりと喉を鳴らした。
「この色はあれだなフラッシュ、お前のと違って…」
「……エアー兄貴の色だ」
クラッシュマンの言葉を引き継いで、フラッシュマンは自身も片腕を空へとのばす。
二人の視界に、どこまでも広がる青い空と自分達の手が映った。
「うー、こういうの見るとエアーが羨ましいな、飛びたいなー俺も」
「同感だ」
「……あれ、何か俺も眠くなってきた、何でだろ、フラッシュ…?」
「さぁな、いいから寝ちまえ、クラッシュ」
「ん……」
五兄の小さな声を聞いたのを最後に、フラッシュマンもまた目を閉じる。
安心するからじゃねえの、という五兄への返答は口にしないまま、彼もシステムを
閉じていった。
そのまま二人で、どこまでも広がる青い空に、次兄の色に包まれて眠りに落ちる。
任務から帰還したエアーマンが基地の屋上で昼寝している弟二機体を見て
呆れるのは、また別の話。


空に向かって手を伸ばしても、地上からでは届かない。
掴んでみたいと、できもしないことを望んだところで馬鹿馬鹿しい。
ただまばゆいそれに羨望のような憧れを抱き、そして何より包み込む色に安心する。
蒼い空が広がっていた。





おわり
10年1月31日 更新

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ