Main2

□遊泳
1ページ/8ページ




ぽしゃ、と水面から音がした。
バブルマンが見上げるとプールの壁ぎわ、光が差し込む水面の一ヶ所が不自然に波立っている。
白い手が水と戯れていた。
くるりと混ぜるように水中を翻り、若干の気泡を水に紛れさせては水面の
向こうへと引っ込められる。そしてまた、小さく水音を響かせながら掴めない
物を掴もうとするように差し込められ、それを幾度かゆるゆると繰り返していた。
その水面の向こう、プールサイドにいる機体の形状と装甲が青いことから
バブルマンは三つ下の弟機体が訪れたことを知った。
自身のための特設プールの水中深く漂っていたバブルマンは、来訪者と顔を
会わせるために上を向き、水を強く蹴り付け泳ぎ始める。
白い手はまだ水と戯れていた。



遊泳



ばしゃ、と音を立てて水面からバブルマンが顔を出すと、バブルマンが思った通り、
プールサイドにフラッシュマンが座っていた。
「よぉ、バブル兄貴」
「やぁ、何してんのフラッシュ、用事?」
「ん、いや用事はねぇけど何となくな。遊びに来た」
軽く挨拶を交わし、バブルマンが来訪の理由を尋ねるがフラッシュマンは用が
あって来たわけではない、と片頬を持ち上げた。
プールサイドにしゃがみこみ、右手を水に差し入れて先程の言葉通り、彼は
半ば遊んでいた。俯き気味の顔は水面に視線を注ぎ、口元は心地よさそうに
ほんの少しの笑みを浮かべている。
弟機体のその様子や水に触れる手を眺めながら、バブルマンはぽつりと呟く。
「ふぅん、何となく、遊びにねぇ?」
すると、その兄の言葉をどうとったのか、水面に視線を注いでいたフラッシュマンが顔を上げた。
「んだよ、兄貴? 水汚してねぇだろ。手ぇ洗って油とか落としてあんぞ」
「え? ああ、違う違うそうじゃなくて、ただお前、水、触るの好きだねぇと
 思ってさ。よく触りに来るよね」
どうやら嫌味か何かの類に取られたらしい先程の言葉に対する弟の声に、
バブルマンは苦笑いを浮かべ否定しながら、自身もプールサイドに近づいて
淵につかまった。肘をついて、傍に座っている弟を下から眺める。
そのバブルマンの言葉に、フラッシュマンは意外だというように首を傾げた。
「ん、そうか? いや、まぁ確かに嫌いじゃねぇけどよ」
「だって、よく何の用もないのにここに来て僕と喋る時は大概水に触ってるよ、
 お前。水触るの好きでしょ、結構?」
そう指摘されると、フラッシュマンは左手でかりかりと頬をかいた。
そうしながらメモリをさらっているらしく、少し考え込むような顔をしていたが
すぐに、あぁ、と小さく口を開く。思い当たることが見つかったらしい。
あー、なるほど、と言いながらゆるゆるとフラッシュマンが頷いた。
「そー…、だな、あんま意識してなかったが、言われてみりゃそうみてぇだな。
 まあ、俺は兄貴と違って沈んじまうし泳げねぇからやっぱちょい怖えがな、水は」
兄の指摘を認めながら、フラッシュマンは肩を竦めた。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ