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□無くし物
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「…………」
「…………」
閉まったドアを少し眺め、ちろりとロックが視線だけをライト博士に向けた。
険しい、とまでは行かないが、普段温和な表情の父が難しそうな顔をして、
去っていった男がまだそこにいるかのように未だにドアを見つめていた。
ぽつりと呟く。
「……僕は出ないほうが、よかったでしょうか?」
「いや、来てくれてよかった。あのままでは玄関でも粘られかねんかったからな。助かったよ」
大きく溜め息を吐いて、ライト博士はロックの肩に手を置いた。まだ昼前だというのに
疲れ切ったような父に、今日の来客は本当に相当だったんだなとロックは思う。
「何かいれましょう、コーヒーとお茶、どっちにします?」
「ありがとう、ではコーヒーを頼む。ミルクを多めに付けてくれ」
胃がもたん。
そうどこかごちるように付け加え、博士はリビングへと足を向けた。背後に倣って歩きながら、
少し迷ったがロックが父の背へ問い掛ける。
「ロールちゃんから聞いたんですけど、随分長かったみたいですね。あの人、
 一体何の用件だったんですか?」
「……そうだな、あとで部屋へ来てくれるか、ロックよ」
「……分かりました」
廊下、及びリビングでは憚られる話題。
濁されたことで、ロックは嫌な予感が的中しそうで唇を噛み締めた。





「情報の開示、ですか?」
「そうだ……」
ライト博士の私室。皮張りのソファで向かい合いながら、ロックが訝しげに呟く。
ライト博士が気乗りしないように続きを口にした。
「お前の得たワイリーの情報、そしてワイリーのロボット達の情報開示。それが用件だ」
「そんな、けど、僕は反対です、だってそんなことしたら…!!」
「分かってる」
嫌そうに話すライト博士に、ロックが反対する。
確かに、ライト博士やロック自身にはこれまでの経緯ゆえに、指名手配である
Dr.ワイリー自身、また彼の技術やロボットに誰よりも通じていた。
Dr.ワイリーだけの情報────どの辺りに潜伏しているか、何をしようとしているか────
そういった情報ならば確かに開示して逮捕に役立てるべきだとロックも思う。
しかし、そういった所在に関してはロックも殆ど把握できていない。幾つかの
関連基地は知っているが、肝心の本基地の場所などは掴めていなかった。
問題は、Dr.ワイリーのロボットについて。
世界征服を高らかに宣言するものが持つ技術を他へと流すということがどれだけ
危険を意味し、また伴うか、ということ。
「平和の為の武装。そしてお前の負担軽減、だそうだ。お決まりな建前だ」
忌々しげにライト博士が眉間に皺を寄せる。
「……Dr.ワイリーは、ライト博士の技術や一般のガードロボットを改造して
 流用してる点もあります。そこまで欲しがるような情報でも無いと思いますけど」
「そうだ。はっきり言わなかったが、真に欲しいのは、ナンバーズを冠するものの情報だろう」
「でしょうね……」
そう言って、二人して黙り込んだ。面倒だと回路でごちる。簡単に開示できるものではない。
しかし─────開示しないなら、最悪の場合、共謀を目論んでいると邪推されかねない。
だからこそ父も簡単に追い返せなかったのだろうと察する。
最悪だ、とかゆくも無い頭をロックはガリガリとかいた。





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