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□無くし物
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何となく、揺れるそれをロックは目で追った。
何故髪を結わなくなったのか。
幾度も理由を尋ねたが、返った答えは『特に理由はないわ』だったことを思い返す。
いつも結わえていた細い緑のリボンは変わらず部屋に置いているし、確かに大した
理由はないのかも知れない。しかし少し不思議なのは、髪を結わなくなった辺りから、妹は明るくなった。
自身の弟機体、カットマンに、この妹の様子が少し妙だったことを相談した際に
『暫らく様子を見ていろ』と言われた為そのアドバイスに従っているが、この所
以前のような憂いは見られなくなったのだ。
(……。でも、それが『どうして』かなんて、聞いても答えてくれないんだろうなぁ…)
知らないうちに何故か解決したらしい、しょんぼりと思いながら、ロックはむにー、と唇を歪める。
その様子はつい先刻まで室内の空気を感知するのにセンサーを張り詰めさせていた様子とはまるで逆だった。
「んー……、ねえ、これに沿えるオリーブ、アンチョビ入ってるのと無いの、どっちがいいかしら?」
何の偶然か、兄機体と同じように唇を尖らせ、ロールがロックに向き直る。
しかし、ロックは唇を尖らせどこかを見たまま、ぼんやりと動かないでいた。
そのまま数秒が過ぎる。
「……?」
「…………」
「…………?」
「…………………」
「…………………」
そして漸く、妹の視線が自分に向けられていることに気付いた。
「……ん? ん!? あ、ごめ、何!?」
「やだロック、目を開けたままシステム落とさないでよ怖いわ」
「そ、んなことないよ! えっと、あれでしょう!? バゲットのジャムの話だよね!?」
「ぶー外れー」
わたわたと慌てるロックに、ロールはからかうように答える。楽しそうに笑いながら
下拵えに戻りつつ、言い訳を重ねる兄機体をのらくらとかわした。
すると、奥の廊下から小さく足音が聞こえ始める。
「………!」
「………!」
二機とも反応し、そしてすぐにロックがキッチンから出ていった。
足音を殆ど立てずに行くと、深い木目調の品のいいエントランスに、ライト博士と男が
立っているのが視認される。
「…では博士、お時間を取らせました。先程のことについては、どうか前向きに」
「検討はしよう」
「是非とも、…! ああ、君は」
この期に及んでまだ何か交渉しているらしい男は、少しそっけない様子の博士から
姿を見せた少年型ロボットに意識を向けた。ロックがにっこり微笑んで、姿勢正しく頭を下げる。
「初めまして、本日はご来訪ありがとうございました。何もお構いできず申し訳ございません」
「いいや、こちらこそ、突然お邪魔してすまなかったね。君があの有名なロックマンか。
 …素晴らしいとは常々聞いていたが、噂に違わないね」
丁寧に応対する姿に感歎の声をもらしつつ、どこか男は観察するように見つめた。
もはや慣れた────珍しいものの価値を計ろうとする視線を受けても、ロックはほんのりと微笑む。
「勿体ないお言葉です」
「謙遜なんて、それこそ君には勿体ない。わざわざ見送りありがとう、君のファンに自慢ができるよ」
では、博士。
最後に博士に軽く会釈し、ロックを見れたこともあってか男は少し満足そうに帰っていった。





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