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□耽溺
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あまり使われていない筈のこの地下だが、誰かがちょくちょく使っている形跡が見られていた。
どこからか拾ってきたのだろう、随分と時代遅れのテレビが壁ぎわにあるのがいい証拠だ。
恐らくはこの青がたまに使っているのだろう。よく雑務を逃れ姿を消すと、同期
ナンバーズが零しているのを聴覚器が拾ったことがある。
「…………」
興が削がれた。
ただでさえ任務の戦闘やトレーニングで解消しきれず不満が燻る中、こんな
他機の神経を逆撫ですることに長けた面倒な機体と言葉を交わす気はない。
ブーメランを肩に担ぎ、クイックマンがドアへと向かう。
「オヤ、お早いお帰りで。俺ァ別にトレーニングにきたわけじゃねーぞ。空けてくんなくていいぜ」
「煩い」
「ンん、何だ、ご機嫌斜めだな。見られてちゃ恥ずかしくてデキねぇのか?」
「…………」
からかうようにフラッシュマンが言うのを、厭わしげに見やる。青はこちらに
視線を流しながら、何がおかしいのかくつくつと肩を揺らし、白い指で唇をなぜていた。
チリチリと、苛立ちを込めた視線をクイックマンが向ける。すると、見られていると
知りながら、フラッシュマンの唇の隙間から舌が覗いた。ちろりと唇と指先を濡らす。
口元から指が辿り降り、自身の機体を抱き締めるように腹の辺りで左右非対称の腕を組んだ。
視線を絡めたまま、は、と湿り気を帯びた熱が吐き出される。薄暗い中、陰影を
増した下半身が重心をかえた。じゃり、と足元で砂塵が音を立てる。
揺れる腰と、光源に直にさらされる大腿部が鈍く光を返した。

どこか、意味深なそれら。

こんなもの、無視をしてさっさと立ち去ればいい。
クイックマンの論理回路がそう訴える。彼自身もまたそう思ったが、何故だか
その最速を誇る両足は動かなかった。絡まる視線は解けないまま、ただ対峙する。
自身と比べると小柄で細身の機体。
口元は未だ嫌な笑みを浮かべ、中のギザついた歯を覗かせていた。
癪に触る見透かすようなアイセンサーが、クイックマンを見つめたまま挑発的に細められる。
薄暗い中に妙に目立つ、白い手がするりと腹部から腰へと撫でた。
時を司る、その右手。閃光を撒き散らし、こちらの何もかもを奪う白。
「…………」
クイックマンは絡んだ視線を外し、その白を眺める。
自分達の武器が、仲間内の誰かの弱点になるのはナンバーズの共通項だ。
フラッシュマンのその白い右腕は、クイックマンの弱点の中でも最もダメージを負わせるものだった。
だからとて、彼は引け目も負い目もなければ、別段屈辱も感じていない。
得意とするバトルフィールドも違うし、共闘することなどまず無い。故に、最大の
弱点武器といえど正直どうでもいいものだった。
「…………」
その筈が。





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