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□耽溺
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・10万打アンケート3位御礼のA賀版速光









分厚いコンクリートの壁。張り巡らされた配管。薄暗い灯り。ひやりと冷えた空気。
時代遅れのテレビ。忘れられたような場所。その片隅で。





いくつかあるトレーニングルームの、中でも古いものの一つ。
基地の地下にあるそこで、クイックマンは身の丈程もあるブーメランサーベルを振るっていた。
コンマ単位で場所のかわるホログラフィーの的を狙い、切り裂きながら壁に亀裂を作っていく。
彼は普段なら地上のものを使うのだが、今日は都合悪く全て他のナンバーズが
使用中だったのでここに訪れていた。
壁を蹴り、腕を大きく振ってブーメランを投げる。
的とは真逆の方向だが、しかしその的が姿を消してブーメランの向かう先に現れた。
勢いのまま突き刺さり、ざらり霧散する。最後の的が壊れると、終了のブザーが鳴り響いた。
「…………」
床に降り立ち、クイックマンが姿勢を正す。その赤へ戻ってくるブーメランが
頸部を目がけ牙を剥くが、しかしそれを一瞥もせずに手に取った。
次いで、ひゅん、と一なぎして武器が纏っていた塵を払う。主人の手に帰った
それは、今はおとなしく従い次の手を待つようにおさまった。
こつり、と端が床に置かれる。
傷一つないブーメランは、やる気のない明かりのもとでもぎらりと鮮やかに煌めいた。
クイックマンが小さく排気する。
やはり最新のトレーニングルームと比べると物足りない。パターンに乏しく、
奇抜性が少ないため獲物をとらえやすい。つまらない。クイックマンはそう思った。
当てられた任務もすぐに終わってしまったため、その不満を解消したくて訪れたのだが
まだ不完全燃焼だった。最も、普段は最新のトレーニングルームはクイックマンが
使うことが多いため空けられていることが多いのだが、今日はクイックマンが
思いの外任務から早く帰還したため埋まっていたのだ。
そこに。
ぱちぱち、と気だるげな拍手が響いた。
「─────!」
「てめぇも暇人君だねェ?」
音源を見やると、壁にもたれかかったフラッシュマンがにやつきながら立っていた。
何時の間に。いつからいた。クイックマンが思うが、しかし口にはしなかった。
クイックマンは、フラッシュマンと殊更仲が悪いわけではない。だが、いいわけでもない。
否、もともと他機と馴れ合わない気質のため、同期といえど言葉を交わすことすら少ないのだ。
クイックマンがこちらを視認したのを見て、ゆっくりフラッシュマンが室内に足を進める。
傍に転げていた、先程まで壁だったものの残骸を蹴った。がらん、と虚しく音が鳴る。
「任務から帰還したと思えば上が埋まってっからって、ワザワザここに来てヤるかね普通?」
「何しに来た」
「えー? 見学デスケドぉ?」
嘘だ。
即座にクイックマンは思った。大袈裟に肩を竦めているが、この機体がそんな殊勝な真似するはずが無い。




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