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□伝達3
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「隊長……」
言葉と笑みに、ジョーが心配そうにフラッシュマンの頬に手を添えた。
そこは打撲の後があり、基地に訪れた時からあったもので、未だそのままだった。
殴られた形跡だろうとジョーは思う。然程大きなものではないが、それでも酷く、痛々しい。
先ほど自己嫌悪、とフラッシュマンは言って締めた。つまり詳しい話はしない、
或いは出来ないということらしい。
ならば────愚痴にすら出来ないなら、せめて何かの役に立ちたい。
「…ならせめて、お顔の破損の修繕なさいませんか? キットを用意してあります」
「あ? ああ、そうだな…」
忘れていたのか、ああそう言えば、と言うようにフラッシュマンがこりこりと反対側の頬をかいた。
そして恥じるように喉を鳴らし、常より少し暗い色のモノアイを見つめ返す。
何かしたい、と声なく訴えるそれに、ふっと視線を和らげた。
「すまん、じゃあ持ってきてくれるか」
「! はい、すぐお持ちしますね」
「ん、サンキュ」
嬉しそうに踵を返すジョーの背に声をかけ、スライドするドアの向こうに消える姿を見送った。
「…………」
静まった室内で、フラッシュマンが少しため息を吐く。ばったりと、寝台に仰向けに倒れた。
回路の中に渦巻く自己嫌悪が、さらに増す。
(…………あ゙ー、だっせー……)
普段から気のきく部下だが、ああも心配させるとは情けない。みっともない姿を見せるのは
指揮官にあるまじきことだと思うが、今の自分は余程余裕がないらしいと断じる。
基地に来てからの態度を省みて、あれではそりゃ部下も心配するだろうよと今更だが思った。
さらに沈みそうな気分に、しかしふと通信が入る。
『たいちょー、今いいですか?』
『? どうしたショット』
連絡係の部下からの通信に応答すると、すぐに返事が来た。
『基地の通信にウッドマン様から連絡がありましたー。今兄はいるかい? って。
 たいちょーに直に通信しても大丈夫か分からないから、基地に入れてみたそーです。どうします?』
『了解、俺からウッドに連絡するから大丈夫だ。報告サンキュ』
『分かりましたー』
どこかのんびりした部下との通信を終え、ウッドマンへ回線を切り替える。
『よう。どうした、ウッド?』
『あ、兄ちゃん。今忙しくない? ごめんね急に』
『いや、やることなさすぎて暇で寝てたから大丈夫だ。気にするな』
『そう、よかった』
『任務お疲れ。長くかかったな。無事だったか?』
『うん、何とかなったから大丈夫だよ、ありがとう』
『そうか』
末弟との久しぶりのやりとりに、無機質なメッセージにも関わらず思わず和やかな気分になった。
しかし、無駄話しても仕方ないと思い、フラッシュマンから本題に入る。
『……さて。お前にもエアー兄貴にも、何があったかとかはもうバレてんだろうな』
『…うん、流石にね』
少し気まずそうに返された内容に、フラッシュマンは口端を少し持ち上げた。
優しく気のきく末弟は、それ故に嘘が付けない。心配してくれたらしい優しさに、
嬉しいと同時にまた情けなくなる。
『フラッシュ兄ちゃんからこっちに連絡はないし、かといってこっちから連絡
 入れられる雰囲気でもなかったから、こっそり僕が』
『だろうな。すまねぇな、迷惑かけて。貧乏くじひかせた』
自虐的に笑いながら送ると、あわてて末弟から返信がくる。
『そんなことない。それとは関係なしに兄ちゃんと連絡とりたかったのは僕だし!』




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