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□つき
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「にしてもこの位なら簡単に破れると思ったんじゃが、これは予想外じゃて」
何でこんなに向き不向きができたのかのー。わが子ながら不思議よの。
思考が猫になるというウイルスが組み込まれたわが子たちを眺めながら、しみじみとワイリーが呟く。
そして少し残念そうに、「まだまだ厄介なウイルス用意しといたんじゃがなー」と続けた。
「……で、この図体でかい猫三匹の世話はどうなるんすか」
諦めたか吹っ切れたか、しかしぶすっとしながらフラッシュマンが父に問い掛ける。
低くかけられた声に、ワイリーは歯を見せて口端を釣り上げた。
「なぁに、暴走はせんようにリミッターは組み込んであるから安心せい。お主にこやつらの
 世話を焼かせるつもりはない。ただ、室外に出すつもりはないから、今日一日
 こやつらはラボにいてもらうつもりじゃ」
「……了解」
「暫らくしたらメタルも帰還する予定じゃから、ただの経過データとるだけでも
 あ奴なら喜んで世話を焼くじゃろうて」
「あーでしょうね。って、あれ? メタルって何か任務ついてましたっけ」
「いや、ただの買い出しじゃ」
「あー」
にゃあにゃあと戯れているのを見るともなく見て、ワイリーとフラッシュマンが雑談に興じる。
しかし、ワイリーの思惑から外れ一向にウイルスを打破する気配のない三機体に、
フラッシュマンは何とも複雑な思いに駆られた。
自身と長兄であるメタルマンは、確かに比較的デジタル処理に向いた設計ではあるが、
だからとてほぼ同時期に作られた自分達の基礎にそこまで違いはない。
論理回路も感情回路も、実のところ同設計であった。それでもこうして個々の違いは発現し、
それを個体差というのだと、父が喜んでいたことをフラッシュマンは覚えている。
(それにしても………)
無害に近い、と実行犯の父は言っていた。
それも破れない程、そもそものスペック差は本当に無いはずなのにと心配になってくる。
破る気が無いのなら話は別だが、と思いながら、「で、内容としてはどんなの入れたんすか?」と問い掛けた。
「ん? 見てみるか? ほぼ初級テキストみたいなもんじゃが」
キーボードを叩いて、ワイリーが傍のモニタにプログラムを表示させる。
そのウイルスデータをフラッシュマンが見ると、本当に何とも単純なプログラムだった。
フェイクもトラップも無い、ごく単純な思考侵食プログラム。
「…………これマジで破る気ないんじゃないすかこいつら」
「どうかのー。クラッシュとヒートはもしかしたらそうかもしれんが、クイックだけ
 仁王立ちなのが妙なんじゃがの」
「あー、あれじゃないすか、シャム猫とかロシアンブルーとかみたいに、生意気に
 お高くとまりやがった猫的なあれ」
「高級な猫のプログラムなんぞわしゃ組んどらんぞ」
飲むか?
「いや、いいっす」
こぽこぽとマグにコーヒーを入れながら言うワイリーの背を、フラッシュマンは肘を突いて眺める。




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