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□落差
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「あー、あんたあったかいっすねえ、手」
引き寄せるでもない、舌を這わすでもない、重なった手をただゆるく握り、へらりとスネークマンが笑う。
実際、のばされた白い右手は、先程までの作業の名残か平時より暖かい。
それが単純に心地よかった。
「てめえは冷てーな」
はー、と半ば感心したようにフラッシュマンは自分の手を握るスネークマンをしげしげと見下ろす。
この部屋の暖房は一番高い温度で設定され、出力も最強にしてある。資金難に苦しむ
ワイリーナンバーズの懐事情はどこへやら、節電とは真逆に、寒さを厭うスネークマンは
ガンガン部屋を暖めているのだ。実際室温は推奨温度よりも大分高い。
それなのに、この機体温か。
触れる手の冷たさに、フラッシュマンは心配そうにアイセンサーを眇た。
「てめ、エネルギーちゃんととってんのか?」
「とってるっすよー」
「ふーん。それが本当ならいいんだがな」
「微妙に嘘つき呼ばわりっぽく言うのやめてくんない」
「いーや、てめえはどーも信用ならん」
言いながら、フラッシュマンは屈んで自由な方の左手でスネークマンの肩に触れる。
もともとの機体温の差はあれど、やはりひやりとしていた。肩から首もとへと、
熱を移すようにぺたりと手を動かすと、応えるようにスネークマンはフラッシュマンの
手を首と肩で挟むように首を傾ける。そして熱源が恋しいのか、包むように手を添えた。
「あーぬくいー。口は冷てーのに、あんた機体は見かけによらず暖かいよね」
「これでも平常値は低い部類だ。てめえがもっと低いだけだ馬鹿」
「うっわ、ほんと口冷たい何この酷い先輩」
砕けた応酬をしながら、するりとスネークマンが尾をのばした。屈んだおかげで
目線が近くなった相手の首へ、するりと這わせながらゆっくり巻き付く。
感覚にか冷たさにか、ぴくん、と少し青い肩が跳ねた。
「んッ、馬鹿、擽ってーなこの…ッ」
「あーまじあったけー。先輩もっとー」
「うぜー、この後輩ほんとうぜー」
スネークマンが尾に力を込め、まるで抱き寄せるように距離を狭めると、フラッシュマンは
呆れ半分にそれを受け入れた。右肩、首の後ろを辿って左肩辺りで尺の余った
尾がたぐまる感覚に、やはり冷たいと回路の中で真面目に分析する。
もともとスネークマンは体表にあまり熱を回さない設計になっていることから、
この冷たさがそれに起因しているのか或いは別なのか、フラッシュマンは計りかねていた。
一方のスネークマンは、排気すら明確にセンサーが捕らえる距離まで相手が近づいたことに、
内心笑みを浮かべていた。別にエネルギー摂取を控えていたわけでも、殊にわざと
機体温を下げているわけでもない。いまの自分の機体温は、室内の暖房も手伝って
この季節にしては珍しく平常値の内だ。
と言うよりも、恐らく室温とのギャップで冷たく感じられているのだろう、呆れ顔の
向こうに心配そうな感情が透けて見える気がして、声を上げて笑いたくなる。

本当に、口の悪いがさつな気配り屋。
罠にはまったとも知らないで。





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