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□落差
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きし、寝台が軋む。
ゆっくり、ゆっくり。決して急かさず、ただいざなう。
近づく唇が微かに開くのを見て、少しアイセンサーを細めた。




「最近寒いっすねえ」
「ん?」
そうか?と返る声に、スネークマンはえーっと驚いて窓から視線を外して振り向いた。
「うそマジで、あんた寒くないの!?」
「んー、や、そりゃ寒いが、まー耐えられるくらいだな」
「はー、あんたの基地寒いとこにあるからすかねぇ」
「さぁな」
そう締めて、ぽや、と光が瞬いた。
振り向いた先、デスクでデータを見ているフラッシュマンを、スネークマンはしげしげと眺める。
椅子にゆったり座り脚を組み、肘を突いてモニタを眺めるその横顔は酷く真面目だった。
こちらの言葉に声だけで反応した先輩機体は、時折白い右手をコンソールのアクセスポイントに
かざして弱く光を瞬かせ何かやりとりをしている。
場所は、スネークマンの個室。
見せてほしいデータがあるとアポを求められ、諾と返したのは今日の昼。
こちらの手が空かなかったため招けるのが夜遅い時間になったが、こうしてゆっくり
姿を眺めるのは久しぶりだった。
「わりぃな、すぐ終わるからよ」
「別にいーよ、ゆっくり見てって下さい」
じっと視線を注がれていたのを何か勘違いしたのか、フラッシュマンは少し気まずそうに
スネークマンを見やる。それに気さくに返し、ごろりと寝台に転がった。
そして、今度は視界の端に収める程度に、また青い色を見る。
愚痴と口の悪さ。面倒臭がりで、がらの悪い目付き。戦法は下衆でやたらと卑劣。
そんな感じに、対外的にはやたらと碌でもない機体だが、対内的には面倒見がよく
妙に苦労性で細かい気配りをする優しい面を持つ前世代の機体。
夜遅い時間になるくらいなら日を改めてくれて構わない、という申し出を断ったのはこちらなのだ。
寧ろいくらいたって何も問題はないどころか、願ったりというものだった。
そう思っていたのに、本当にすぐにデスクの駆動音が消え、フラッシュマンが立ち上がり
スネークマンは内心焦りを感じた。
「?終わったんすか?」
「いや、長くなりそうだからな、今日はもうやめとくわ。悪かった、こんな時間に」
今度何か奢るわ。安物でほしーもん考えとけ。
に、と片頬を持ち上げる、人の悪そうないつもの笑みを浮かべるフラッシュマンに、
スネークマンは「あー、そっすねー」と上体を起こした。
「奢るとか別にいらねぇんで、代わりにちょっと付き合ってもらっていっすか」
「?何だ?」
不思議そうに首を傾げるフラッシュマンに、スネークマンはやんわりと微笑む。
そして手を差し伸べて、もっと傍にと言外に呼び寄せた。反射的にか差し伸べた
手を取るフラッシュマンに、スネークマンの視線に鋭さが宿る。

「寒いんで、あっためてもらえませんか」





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