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□勝手3
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勝手2の続き










─────深く暗く、冷たい静かな暗闇に包まれる。


背けられる視線。離れる手。遠ざかる背中。向けられなくなる声音。閉まる扉。
聞こえなくなる音。感じなくなる熱。襲いくる無感覚。迎え入れられる、吐き気がするような安心感。
黒く霞む世界の中、小さな光を求めては何もないことにただ喘ぐ。
塗り潰される感覚に、喉からしかし悲鳴すらもう零れなかった。



切っ掛けは些細なことから始まった。
例えば何か見ようとしてピントが合わないだとか、傍の物を取ろうとして指先が痺れるだとか、
ただ歩くだけなのに左右の歩幅にむらが出るだとか。
些細な、しかし紛うことなき異常。
しかし直すわけには行かなかった。それを誰かに気取られるわけには行かなかった。
況してや自分で直すなど決してしてはいけないことだった。
ラボ、及び機体が集まる場所にいては行けない。何かにアクセスなどしてはいけない。
知られてはいけない。見られてはいけない。繋がってはいけない。
それは自身が抱えた忌み事。



酷く黒く、静寂ばかりで熱の無い暗闇に、押し潰される──────








「ええ!?放ってきた!?」
エアーマンから話を聞いて、メタルマンが大声を上げた。
見てきたフラッシュマンの様子を、しかしリビングで他の兄弟機に聞かせるべきではないと判断し、
エアーマンに連れられ二機体は今ラボにいた。
壁に背をもたせかけ腕を組んでいるエアーマンは、兄の声に静かに頷く。
「ああ、そうだ」
「何でまた!?」
メタルマンがおろおろと見上げると、大柄な次男はゆっくり目を閉じた。
「さぁな。ただ、ただの甘ったれな愚痴に手をかす気にはならかった」
「ただの愚痴…」
茫然と反芻するメタルマンに、エアーマンが「ああ」と続ける。
先程のフラッシュマンとのやりとりをメモリがリプレイし、視線に険しさが宿った。
「たまっていたものが爆発したのかもしれんが、あいつらしくないだだっ子のような物言いをされてな」
淡々と、しかしどこか不機嫌そうに言いながら、ちろりと紅い視線を長兄のそれと絡める。
「些か呆れた」
ぽつんと言い、しかしエアーマンはすまなそうに溜め息を吐いた。
「すまない、メタル。俺が出るべきではなかった。余計に悪化させた」
「……いや、お前でダメなら俺がいってもダメだったろう。確かに俺もあの子に
 甘えすぎてた帰来があるから、仕事のことも考え直すよ。オフ期間ではあるから
 フラッシュは取り敢えず置いておくとして、あとの問題は…」
「クイックか」
最後を濁した長兄の言葉を引き継ぎ、エアーマンがプロペラをくるり回す。
うん、と頷き、メタルマンは困ったように腕を組んだ。
「んー…何だろうね、今回ばかりはどうもやりにくいなぁ……理由がわからない。
 今までは喧嘩の理由がある程度分かったけど、原因が分からないなら対処もやりにくい。
 バブルが帰還次第様子見してくれるって言ってくれたけど…」
「役に立たなくてすまない」
「そんなことないよ。もう少し様子を見よう。博士が戻られるのもまだ先だ」
Dr.ワイリーはクイックマンのメンテナンス後、惑星探査ロケットの調査に赴き現在留守にしていた。
そのためこのクイックマンとフラッシュマンの騒ぎを知らないが、知らせるつもりは
メタルマンにもエアーマンにもなかった。こんなことで主人の手を患わすわけにはいかない。
そう思って、五男とともに任務に出向いている三男を待つことにしたのだ。






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