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□不公平
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がさり、と枝が揺れて、葉が擦れ合う音が鳴る。
まだ小さめで薄く淡い色合いの、萌え出たばかりの若い葉を携えた木々の群れ。
雨が降ったわけでもないのに薄く靄がかかり、辺りの空気は水を潤沢に含んでいる。
寒さは和らいできたが、まだ暖かいとは言えない気温。
しかし機体を軽く冷やす程度のその涼しさが、装甲のセンサーに酷く心地いい。
纏わりつく露を振り払って、水滴を後ろへと置き去りにしていく。
射してくる光の中、それらは浴びたものを反射させて空中で煌めいた。
しかしそれすら、否、彼は周りの何もかもをその視界に捕らえることなく、
視界が狭まろうと開けようとお構いなしに、何かと競うように駆け抜けていく。
徐々に射し込む光が強さを増し、それによって影の色が濃さを増していく。
涼しかった空気は段々暖かくなり、潤っていた風は少しずつ乾き始める。
辺りが時間が経つとともに変化していく。
しかし、彼はただひたすら前だけを見ていた。



不公平



「……っ!!」
前に進もうとした足で地面を踏み付け、足首の間接に負荷をかけて地面と足で
摩擦を起こし速度を殺す。前に傾けていた機体を起こして体の重心を後ろへ
引き、走り続けようとしていた機体にブレーキをかけてその場に立ち止まった。
地面を引っ掻く摩擦音が静まり、じゃり、と鳴ったのを最後に足元から音が止む。
辺りは静かな森の中。
ワイリー基地の傍にある、ナンバーズの末の機体のウッドマンが世話をしている森。
その新緑の中、朝の光にその赤を鮮やかに目立たせ、クイックマンが立っていた。
日課にしている早朝ランニングの最中だった彼は、今の今まで前だけを見て
いた視覚システムを進行方向とは違う方向へ向けている。走っている最中に
ちらりと、しかし確かに捕らえた、普段ここに無い筈の特徴的な色を彼は
見つめていた。自身の色とは逆の、しかしこの場所で目立つ事は同じなことに
変わりはない機体色。
彼がいる場所から離れた木々の隙間に見える、青と黄色。
その機体の白い右手は、黒い何かを持っている。右手が少し動くと、その黒い物は
パシャリ、と音を立てた。
クイックマンの二つ下の弟機体、フラッシュマンがカメラを持って、森の風景の
写真を撮っていた。

何で、こいつがここに。

珍しい光景に驚きを覚え、クイックマンはこちらに気付かないままファインダーを
覗き込んでいる弟機体の方へと近づく。
静かな森の中、さくり、と地面を踏みしめる音がした。
「……何してんだお前?」
物音とかけられた声にフラッシュマンはファインダーから顔をあげ、音が
聞こえてきた方向へと視線を投げてクイックマンを視認した。
「ん? …よォ、何だ、誰かと思やぁてめぇか。相変わらずはえーな、昨日
 任務から帰ってきたばっかだってのに、早朝ランニングか」
「そうだ」
軽く言葉を交わし、クイックマンがさくさくと音を鳴らして歩み寄る。




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