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俯く朱色に、ぽつりと声をかける。
「………別に前のことはもう怒っちゃいねぇよ」
「え、ホントか?」
フラッシュマンの言葉にクラッシュマンがぱっと顔を上げる。安心したように
「なら、よかった」と笑みを浮かべた。
「じゃあ、一緒に行ってもいいか?」
「ああ」
「そうか、やった!」
「ちっと待ってな、すぐ準備すっから。あ、でもカメラは貸さねーぞ、兄弟?」
「え、ケチ、ハゲ!」
「誰がケチでハゲだ、また壊されてたまるか。ふざけんのも大概にしとけよハト」
ドアシステムにアクセスし、開錠コードを送信しながらフラッシュマンが
クラッシュマンをこづく。あと、と言葉を繋げた。
「何考えてたのか知らねーが、知恵熱出るぞ、やめとけ」
「チエネツ? って何だ?」
「あー…思考回路に負荷かけんなってことだ、熱籠もっちまうからな」
「? ふぅん、そうか」
「そーそー」
適当に誤魔化し、フラッシュマンは部屋からカメラを持ち出してクラッシュマンと
連れ立って歩き始めた。クラッシュマンは弟に言われたことはよく分からな
かったが、取り敢えず一緒に行けることが嬉しくて、自身より背の高い弟機体を
見上げて笑いかけた。
フラッシュマンはそれを見て、やれやれと片頬を持ち上げる。何を悩んでたのか
知らないが、あんな悩んでいる顔をされるよりこっちの方が無駄に気を遣わずに
すんでずっといい、と回路の中で呟いた。次いで、ホントに手のかかる…、と愚痴を追加する。
白い廊下の朱に青が加わり、二人で歩いていった。
フラッシュマンの部屋のドアがしゅん、と音を立てて閉まり、システムが
オートでまたややこしい施錠を施す。閉じたドアの前には誰も残ってはいない。
もう、───一方的なものだったが───留守番は終わったのだ。
廊下に、弟の考えなど少しも知らないクラッシュマンの楽しそうな笑い声が小さく響いた。



おわり

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