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物音を立てなければ静かな空間。
そうしろと言われたからではない、しかし彼はそこにいた。



留守番



「お前は一体何をやってんだ、兄弟?」
ワイリー基地内のナンバーズに割り当てられた部屋が連なるブロックの廊下で、
六番目の機体であるフラッシュマンは自身の一つ上の兄機体が自身の部屋の前に
座り込んでいるのを見て驚いた声を上げた。白い空間に、鮮やかな朱色がぽつんと存在している。
「いや、今日写真撮りに行くんだろ、弟よ?」
一緒に行こうと思ってな、お前を待ってた。
ドアの前にしゃがみこんでいたクラッシュマンは、任務を午前中に終えて帰還
してきた弟機体を見上げながら端的に答える。
本当は部屋に入って待っていようかと思ったのだが、部屋の主人しか受け入れ
ないアクセス制限がドアに施されているため、この青い機体の部屋には本人が
開ける以外、誰も入ることが出来ない。
そのため、まさかドアを壊すわけにもいかず、クラッシュマンは座って弟の
帰還を待っていたのだ。
「カメラ貸してくれ、俺も写真を撮ってみたい」
「そう言ってお前に握り潰されたデジカメの存在を俺は忘れない」
「っ! あぅ……」
わくわくとクラッシュマンが口にした言葉にフラッシュマンが即効で切り返す。
以前一緒に出かけた際、クラッシュマンはフラッシュマンにカメラを教えて
もらおうとして、シャッターを押そうとしたらカメラを握り潰してしまった
ことがあるのだ。忘れていたことをぐさりと言われ、クラッシュマンが申し訳
なさそうに肩を落とす。破損は見られないものの、任務後の為か汚れた姿の弟の
視線が呆れを含んでいるような気がして、クラッシュマンは気まずそうに俯いた。

(……失敗したかな)

この青い弟機体は、同じく青い兄機体である次兄とよく写真を撮りに出かける。
それは撮影ポイントへの移動の為であったりすることが大体の同行の理由なの
だが、先輩風を吹かす次兄と愚痴たれることの多い捻くれ者の六弟は仲が良い。
否、と言うよりも、捻くれ者の割に、自分含め他の兄たちの誰よりも六弟は
次兄を頼り、慕っていた。
勿論自分も次兄を頼り慕っているが、クラッシュマンは自身を兄と頼らない弟に
頼られ慕われ、挙げ句に弟の趣味の時間まで共にする次兄が羨ましいのだ。
だから一緒に行こうと思ったのだが、如何せん自分の過去の失態をすっかり
忘れていた。どうにも不器用で繊細なものや小さなものの扱いが、性能上か
クラッシュマンは不得手だった。
自身の最初の弟に兄と慕われたいのと、次兄とするように趣味の時間を共にして
みたいと思ったのだが、出だしで失敗した気がする。クラッシュマンは小さく
自身の膝装甲を掴んだ。

(……………?)

そんな何やら考え込んでいる兄の様子を見て、フラッシュマンは溜め息を一つ吐いた。
兄の不器用さを彼はよく知っている上、番号が近いためかフォローすることも多い。
だから件のカメラのことも、仕方ないことだったとはわかっていた。
それに、別に苛めているわけではないのに、そう落ち込まれると居心地が悪い。



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