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「おっまえさぁ、何してくれてるわけよ、割とマジで」
「だっから、ごめんって!!」


組んでいたプログラムを見事にバックアップごと消去され、フラッシュマンが文句を言えば
クイックマンは困り果てたように謝罪を叫んだ。
額を抱え、フラッシュマンはがっくりと肩を落とす。
「まぁあいったぜ、今度ばかりは。デフラグかけてなかったせーで俺の中にも
 保存してなかったしなぁ。くっそ」
椅子に座り沈むフラッシュマンの後ろで、やらかしてしまったクイックマンがおろおろと狼狽えた。
流石に悪いことをしたと思うも、打開策は思いつかない。
さりげなく言葉を掛けてみる。
「あ、ほ、ほら、メモリにもなかったりすん、の、か?」
「いや、覚えてねーわけじゃねーから組み直しはできっけど…。ただなぁ、パターン変えたり
 やり直しまくったからマスターデータがどうだったか…。なぁ、メタルへの言い訳お前やってくんね…?」
力なくフラッシュマンがクイックマンを見る。
悪態すら吐かず頼みを言う青の珍しさに、今度ばかりは本当に困らせているとクイックマンは知った。
しかし、言われた言葉に、クイックマンは唇の端を引きつらせる。
「うぐっ…! ま、まじか…!」
普段は温厚で愛情過多な長兄だが、父、若しくは基地に影響を及ぼすような失態には容赦無かった。
それを知っているからこそ引きつらせたが、しかしクイックマンはきっと姿勢を正した。
「い、否、やる! わかった、やる! 俺が悪いんだし、それくらいはやる!!
 煮ても焼かれても切られても、甘んじて受けるっ!」
「え、マジ? 冗談だったんだが。てかメタルだって悪気ねえミスにそんな目くじらたてねーよ」
驚いたようにフラッシュマンが言うが、しかしクイックマンは首を横に振った。
「俺が、お前がいないすきにちょいと面白半分に悪戯してやろうと思ったのが発端だし!
 くだらねえことで迷惑かけたんだし! それは俺がきっちりと責任を!」
クイックマンの素直な白状に、フラッシュマンが怒るより先に呆れた。
げんなりと机に肘をつく。
「お前、そんな理由で普段触りもしないコンソールにアクセスしたん?」
「いや、なんかプログラム組むのっておもしろそうに見えて。やったことないし」
「それで何でマザーデータごと消すなんてミラクルやるかね」
「いや、それは俺にもよくわからん」


「ふぅうん?」


タイムストッパーは発動していない。
しかし確かに、大きくもない声ただ一つだけで、赤と青の二体が凍り付いた。
「…………」
「………っ!」
辺りを痛いほどの沈黙が支配する。
フラッシュマンに至っては赤い兄の背後に立つ声の主も見えていたため、回路の中で合掌をした。
ぽん、と紅色の手がクイックマンの肩に置かれる。

「楽しそうだねお前たち。詳しく聞きたいなぁ、お兄ちゃんも混ぜてくれるかい?」


ぐぎぎとクイックマンが後ろへ首を向けた。
長兄のメタルマンが、柔らかで優しい声と顔で、しかし有無を言わせない空気を放っていた。
クイックマンの肩を掴んだ場所が心なしか軋む。
「あ、フラッシュ、プログラム、まだゆっくりでいいからね。でも、頼んだよ」「あ、あぁ……」
赤い機体を引きずりながら、メタルマンが朗らかに青に笑いかけた。
すぐにドアがパシュンと閉まり、部屋はしんと静まる。


喧嘩仲間のようないつも威勢のいい兄が、この時ばかり市場に売られる子牛のようだった、と
後にフラッシュマンは語った。




おわり

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