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響き渡る哄笑、吐き出される悪態、品のない嘲りに、繰り出される閃光。
眩しさに一瞬機能を奪われるアイセンサーは、しかしシステム復帰してもその姿を捕らえられなかった。





「ちょこまかちょこまか、小賢しい」
「あぁん? んだてめえ、文句あんのかよ。これも任務のうちだろォが」
「任務のうちだが、こうも場所をかえろとは言っていない。お前の右腕を使われたら
 こちらはお前がどこにいるかいちいち探す羽目になる」
「ケッ、ちんたらヤッてるてめえが悪ィからだ」
聞こえる減らず口にちろりと視線を落とせば、自身より低い青はロボットだったものの残骸を踏み躙っていた。
時を支配され打ち抜かれ、どれが致命弾すら認識できなかっただろうそのかつての敵機体は、
今やばらばらの無機質な何かとなり地面に打ち棄てられている。
辺りを見渡せば、みるも無残な瓦礫の山と、所々燻る炎の上げる煙が見えた。
大柄な濃紺の機体、エアーマンはこんなものか、とくるりとファンを回した。
複数機体での共同任務。
エアーマンとこの青い機体、フラッシュマンの今回の役割は、敵部隊の撹乱であった。
数を集中させず分断させ、細かく散って連携を失わせ、潰していく作戦。
今頃、他の役割を担っている同期機体が仕事を終える頃だろう、かなり大きな爆発音が短いスパンで上がり始めた。
「おっと、フィナーレ入ったか。クラッシュの奴、相変わらず派手にイキやがる」
「確かに、仕上げのようだな。ならば、俺たちは先に帰還するぞ」
これを言うためにお前を探していた。
そう言いながら、エアーマンは機体を覆い隠すマントをばさりと渡した。
「タイムストッパーを使うときは、機体信号を消すなとは言わんがせめて通信だけはオンにしておけ。
 お前自身がどんなに煩くても、時間を止められてはどこに行ったかすぐに把握できない」
「へぇーい」
けたけた笑いながら、フラッシュマンは悪怯れない様子でマントを羽織る。
恐らくはこの小言も右から左だろう、自身も羽織りながら、エアーマンは思った。
そして、クラッシュマンと組んでいるメタルマンへと先に帰還する旨の通信を入れる。
その紅玉のアイセンサーを青い色から外した途端、辺りを白い閃光が貫いた。
「!?」
予想外のそれに咄嗟にアイセンサーを庇い切れず、一時的にエアーマンの視覚システムが眩む。
「ッ……!!」
麻痺したピントを数度調整し合わせると、案の定青は視界から消えていた。
いきなりの、不意打ちのようなそれで沸き上がる苛立ちに視線を険しくしながら、
機体信号を確認のためセンサーを働かせ、通信も同時に起動させる。
しかし次の瞬間、エアーマンの真後ろで何かが壊れ崩れる音がした。
コンマ遅れて、隠されていないフラッシュマンの機体信号も確認される。
「!?」
エアーマンが振り向けば、茶色いマントを纏い、その布の隙間から青や白の四肢を覗かせている
フラッシュマンが背を向けて立っていた。
そしてその白い右腕からは薄く煙が上がり、青い足元には真新しい火花を散らすロボットが転がっていた。
どうやら仕留め損ねたものがいたらしい。
ぐり、と首だけめぐらせ、紅玉に視線を合わせて青がにたりと片頬を釣り上げる。
「片付け忘れだったみてえだぜ?」
「……そのようだな」
それだけ返し、エアーマンは踵を返した。
青のもつ能力は、発動時には事前に言ってほしいものであるが、実際にはそんなことやっている場合ではないのが大半だ。
使うときは先に言え、そんな小言を飲み込む。そしてどうやらそれを分かっているらしく
にやにや皮肉げに笑う姿を横目に、矢張りこの青は小賢しいと苛立ちにまたファンを回した。

貫く閃光に逃げ場がないのを実感しながら。




おわり


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