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高い背、広い肩。真っすぐに見据えるその視線。
荒れ狂う空を背に、大地を踏みしめ悠然と立つ姿は見るものに畏怖を与えるが、
隣立つにあたってはこの上なく頼りになるものだ。
開戦の合図と共に、叩きつける雨もほとばしる雷も、ものともせぬままにいとも
容易く風を操り、荒れ狂うそれを繰り出す。
局地的に、破壊力ある竜巻を生み出す力。幾度も激しい竜巻がその機体から発せられては
辺りを巻き込み吹き飛ばしていく。
圧巻とも言える光景に、酷く笑みが込み上げた。相手より軽い自身の機体は、
その風に従って吹き飛びそうになるのをなんとか堪えている。
しかし、いっそ吹き飛びきりもみになっても構わないと思うほどに圧倒的な力。
風に倣って煩いほど棚引くマントの隙間から覗く紅玉が、深い青の中で一際美しく輝いた。
切り付けるほど鋭いそれは、辺りが分厚い雲で覆われて陽の光を遮り暗ければ暗い程、明々と目を引く。
暗い空間で暗い色の布を纏い、その濃い青は深みを増していっそ黒に近い。
故に際立って目立つその紅玉。その両眼に睨まれるだけで、敵は怯んで二の足を踏んだ。
それにまた笑みが込み上げてしまったせいか、ずるり、と足場が滑った。
瞬間、吹き飛びかける機体を太い腕が支える。
普段なら視線すら寄越さず風に攫われるままにするだろうに、今日に至っては珍しい。
そう思い視線を投げれば、やはりこちらを一瞥もせず視線を返されることはなかった。
しかし、低い声が唸るように移動するぞ、とだけ告げた。
唇を釣り上げ、了解と返す。だが、吹き荒れる風の音で聞こえてなどいないだろう。
構わなかった。どうせ否と言ったところで、この機体の行動は変わらない。
自分を支えたのもこうして肩に担ぎあげるのも、任務遂行に自分がいないのは不利益だからだ。
今はただ、この機体が辺りを圧倒する威力を、絶好の場所から眺めるのを楽しむことにする。

容赦ないその眼光だけが、暗い空間で炎のように色を持っていた。




おわり
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