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日が出る前と、日が落ちたあと。
空気を暖める熱源を失ったその間は日中の暑さを忘れたように、吹く風はからり乾いて冷たさを帯びる。
さらりと装甲を撫で、すぐに去る乾いたそれ。季節が移ろったお陰で涼やかなそれは
触れれば酷く心地よく、無駄な熱を優しく削ぎ落としてくれた。
歩んでいた脚を止め、ざり、と地面に静かに立つ。目蓋を落としてその風によりセンサーを集中させた。
太陽が姿を隠してあたりを濃紺が染める時間帯。少し前まで地面に描かれていた影は
今ではもう辺りの暗さに同化して、もはや境すらも分からない。
静かな、色を変えつつある木立が眠ろうとしているその空間。
月も星もない夜闇では意味をなさないと知りつつ、カメラを持ってこなかった
自分を回路のどこかで叱咤して、しかし機体の出力を下げてただ空気を味わう。
雑務に籠もった熱をもつ身としては、どうしようもなく心地よかった。
吹く風に、ざざ、と葉が擦れる音が立つ。かさかさと幾枚かが枝を離れ、地面に擦れ転がり空気を震わせた。
辺りの静けさ故に、その小さな音を聴覚器が容易く拾う。次いで、こちらに向かう風の音も感知した。
時に強く、はたまた弱く。まだ刺すような冷たさは携えていない、冷たすぎない、しかし熱を奪うもの。
頬、聴覚器、頸部から腹部、腰、指の隙間まで余すことなく優しく触れて、擽る。
閉じたアイセンサーを開けば、すっかり色をかえた木の葉が一枚舞うのが見えた。
明るさの無い中でも何故か鮮明に見えたそれ。落ち着いて美しい、深紅の葉。
柘榴のように、斑なく染まり切ったそれ。
その色は奇しくもまわりの色と相まって、自身の次兄機体を連想させた。
木々が立ち並ぶその場所は、殊に気温が一気にがくりと下がる。
寒いとは思わない。ただ、包まれるような錯覚にセンサーが誤作動しそうになった。
唇からゆるく排気すれば、その熱は乾いた風に攫われそしてすぐに溶け消えた。
そっと、薄い唇を深紅が撫でる。そしてやはり風に倣って、むず痒い甘い痺れのような
微かな余韻だけを残してすぐに過ぎ去っていった。




おわり

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