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人々の暮らしを支える、良きパートナー。発達した文明の平和利用。
何とも、小気味いい、綺麗で美しく理想的な、────吐き気がする程の偽善だろうか。
メタルマンはブレードを放ちながら、ロボットへの世間が持つイメージにそう思った。
所詮便利な道具が欲しいだけのくせに、何故最初に機械人形を作ったものはその姿形を
他ならぬ自分自身に似せたのだろう。
人の形を機械が模倣するにあたり、はっきりいってデメリットばかりが大きいというのに。
メタルマンは淡々と考えながら、壁に深く突き刺さったブレードを引き抜いた。
二足歩行のバランス、五本の指を動かすだけの処理容量、何をするにも複雑で難航な
技術開発を要する、何という非効率。
父から授かった機体は、メタルマンは破片の一つまで誇りにしていた。
愚かだと思うのは、父のライバルだという、ロボット工学の権威というあの存在に対してだ。
人の形を模した意味は。
あの存在の隣にあるのは、良きパートナーと言いつつも、決して対等ではなく従属させた、いわば奴隷。
雑務をこなし、有事には兵器にもなる、万能の雑用係。それに自分達と同じ形を与えるなど、
どうしようもなく悪趣味だ。
道具の域を絶対に越えることのないものを従えた、醜い自己満足。
ハリボテの美しさに何の意味がある。言いなりの存在に何の意義がある。
人を従えるのが倫理に反するというのなら、便利な道具を人に模したのは何故だというのか。
人を持ち上げる存在が必要だというのなら、都合のいい存在をパートナーと呼ぶ理由は何なのか。
何という醜い世界か。
既に道具ですらなくなった、先程までロボットとして存在していた敵の細かい残骸を、
メタルマンが一瞥もせずに踏み付けた。
表と裏の美醜の差の酷さは、いっそ笑えるほどだ。
「───腹立たしい限りだ」
「? どうした、メタル」
「いや、何でもない、クラッシュ」
「そうか。…ならば引くぞ、エアーが迎えに来ている」
「分かってる」
そう返し、メタルマンは廃墟に姿をかえた工場に背を向けた。大柄な朱色と並びたちながら、
敬愛する父のもとへと帰還する。
「……お前は、ロボットの生産や廃棄といった工場に関連する任務だと荒れるな、メタル」
「?」
ぽつん、とクラッシュマンが口を開いた。しかし、メタルマンは一瞬首を傾げたあと、否、と首を振る。
「いや、いつもとかわらんさ」
「……そうか」
横を歩く深紅の返事に、クラッシュマンはそれ以上何も言わずに歩みを進めた。
ふと、頭を上げる。エアーマンの飛空挺が、地面に大きく影をうつしていた。



おわり

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