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フラッシュマンがべろりと長い舌を見せた。
「つかよォ、前イクなとかてめえがヌかすからこんなトコ来ちまったじゃねーの。
 なぁ、もう飽きたし、そろそろフィニッシュといこうぜ?」
フラッシュマンの声に、クラッシュマンはまだ爆煙漂う前方を見ながら声を返す。
まだ残党の気配がした。
「バブルは」
「ああ、とっくにキてんぜ」
「…いいだろう」
言うが早いか、クラッシュマンの両腕のドリルが限界まで回転数を高める。
思い切り地面に突き刺せば、蛛の巣を描くようにドリルを中心にひびが走った。
深く。より深く。
ドリルが唸りながら地面を割り、中の鉄骨をねじ曲げ、地盤を砕き、足場を崩していった。
機体のオイルが沸き立ち、間接のスプリングが軋んで動力炉が熱を上げる。
コンクリが抉れ見る見る細かくなり、かつての砂へと姿を変えた。
内部を包み、外敵から守るはずのブロックは崩れて役割を放棄する。
「…何を…、!! まさか貴様等!?」
今更声を上げる、気付くのが遅い敵の頭を哀れに思いつつ、クラッシュマンが
思い切り抉るように腕を振り上げた。飛び掛かってくる姿が視認されたが、もう遅い。
粉々になったアスファルトがぱっと舞い散る。同時に、地響きが辺りを包んだ。
幾弾も強力な爆弾を受け、止めのように抉られた地形が、敵だけでなくクラッシュマンと
フラッシュマンを乗せたまま崩れ始める。
がらり、と崩壊し、朱色と青が背中から遥か下の海へ向けて投げ出された。
続けて、崩壊する崖に紛れ敵のロボット達も続く。
その最中、離れかける青を、咄嗟にクラッシュマンが抱き込んだ。
海面に叩きつけられた時の衝撃に備えて、ナンバーズの装甲で圧倒的な強度を誇る
クラッシュマンが器用に海に向ける面をくるりと変える。脚部を下に向け、三番機体の潜水艇が潜む海面を眺めた。
勝てない戦いではなかった。寧ろ負ける要素が見当たらない程度のものだったが、
一見、どうしようもないような戦況の時。
腕に抱えた青は、事の最後の仕上げとでも言うように派手なことをやりたがる。
今回がいい例だ。
何も崖など崩さなくても、あと少しで全滅させてやれたというのに。
思いながら、そばに落ちてくる瓦礫をドリルでなぎ払う。


ああ、全く。本当にどうしようもない。どうしようもないが、嫌いではない。
クラッシュマンは、愉しそうな青を腕に抱えて落下していく感に、小さく目蓋を閉じた。
真にどうしようもないのは、果たしてこの青か、それとも。
答えに行き着く前に、海水が朱色を包み込んだ。




おわり

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