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「引くぞ」
戦意を無くしたがらくたを見やりながら、エアーマンが言い放つ。
胴体のファンが勢いを失い、辺りに渦巻いていた風が緩く崩れはじめた。
ごみごみした狭い空間では効力を発揮しきれないその武器は、しかしまるで掃除でも
したかのように辺り一帯───周りの建物の壁は勿論、天井や屋根ごと───を吹き飛ばした。
ぽかり開けた空はどんよりと曇り、今にも雨が降りそうな様子をしている。
ドリルの回転を落とし、クラッシュマンががしゅんと機体から熱を排出した。
機体に大量に格納している爆弾は威力が大きすぎるため今回は使わず、その両腕の
ドリルだけで纏わるロボットたちを物言わぬ金属に変えていたため機体熱があがっていたのだ。
戦闘態勢からシステムをオフへと移行し、ふんと鼻を鳴らす。
「威勢よく奇襲かけてきた割に、手応えが無かったな。ただの強盗か」
「さぁな」
物資を運ぶための輸送船に襲い掛かってきた、名も知らない一団。こちらが
Dr.ワイリーの船だと知ってか知らずか、随分と派手に吹っかけてきたのだが
彼らにとって折悪しく、ナンバーズが三体も居合わせたため返り討ちにあったのだ。
ちろり、エアーマンが鮮やかな朱色へ視線を向ける。
「フラッシュは」
「奥で食ってる」
つい、とドリルで崩れかけた建物の一端を指し、呼ばれた名を持つ機体の位置をクラッシュマンが教える。
食ってる、と表現されたそれに、エアーマンはまたかと足を向けた。
すぐそこの、最早意味をなさなくなったドアの成れの果てを潜ると、薄暗いそこから
途端聞こえてくるのは下卑た笑い声。辛うじて残っている壁はショットガン式の
バスターの雨を受けたのか蜂の巣のように穴だらけで、床にはかつてロボットだったものが
部品をまき散らかしながら転がっていた。ぱちん、ばち、と命の名残のように火花が散る。
「ヒヒヒ……」
フラッシュマンは名も知らない一団の基地であるその建物の中で、端末から情報を文字通り貪っていた。
膨大なそれを一滴たりとも逃さず吸い尽くすように奪い取り、丸ごとフォーマット
させるようなやり方を彼は好む。
あまりに無理矢理な荒々しい奪い方に、まるで許しを求めるようにブラウザに
時折砂嵐が走った。その弱々しい光に照らされた表情は、酷く愉しげに口端が釣り上がっている。
愉しみに耽るようなフラッシュマンを、ぐいと現実に呼び戻すようにエアーマンの
黄色い大きな手が肩を掴んだ。
「帰るぞ」
「………!」
声をかけると、フラッシュマンは一度瞬きをして機体から力を抜き、エアーマンを振り仰ぐ。
「……ぁあ゙ん? もうオシマイかよ」
「こっちは終わった。戦意無いものを根絶やすのは時間の無駄だ。それに」
深い紅色が、ちらりとフラッシュマンと視線を絡めた。
「お前も本当はとっくに終わっているだろう。美味かったか」
「まぁな」
にぃ、と目元を細め、フラッシュマンが皮肉げに片頬を持ち上げた。
立ち去るエアーマンに倣うように、フラッシュマンが立ち上がって後へと続く。
待っていたクラッシュマンと合流し、二言三言言葉を交わした。


待機していた船が空へと舞い上がり、彼らは基地へと帰路に着く。
立ち去った後には、最早役に立たない壊滅したグループの残党だけが残されていた。





おわり

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