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「すっげ一直線じゃねーか。うわっ、くっそ、暫らくニュースとか見てなかったからなぁ…!!
 星のチェックとか全然してなかったぜ、カメラ持ってくんだった…! 先に言ってくれよ兄貴…!」
「それはすまん。ただでさえ冷える時間だし、風が強くなりそうだったからな。
 しかし、元気がでたようで何よりだ」
悔しそうに、でも嬉しそうにガリガリと頭をかくフラッシュマンに、エアーマンがくつくつと喉をならす。
しかしふと、一転してその声は笑みの色を消した。
「すまないなフラッシュ」
「………? いや」
そこまで謝ることじゃない、と続けようとしたが、その声は兄の言葉で途切れる。
「俺に力が足りず頼りないのは、本当にすまないと思っている」
「……へぁ!?」
何のことだいきなり、と思ったせいで変な声が漏れたが、エアーマンは続けた。
「いつもいつも、普段のメンテからデータのことから、お前やメタルにばかり頼っている。
 お前たちの肩にかかるものを軽くしようにも、俺では邪魔になるだけで何もしてやれない」
「な、何言ってんだよ!?」
突然零された謝罪に、思わずと言ったようにフラッシュマンが遮った。
振り返りながら、夜空を背にした濃紺の中にある、穏やかな紅玉を見つめる。
自嘲でもない、自虐でもない、ただ淡々と、エアーマンは穏やかにまた続けた。
「疲れている弟機体に、こんなことしかしてやれないのが腑甲斐なくてな」
「そ、そんなことねーよ!」
「………」
「兄貴のことはめちゃくちゃ頼りにしてる。マジで。別に戦闘中だけとかじゃなくて、普段だって。
 帰還したばっかだってのに、こうしてわざわざ気ぃ遣ってくれんのだって嬉しいし!」
「………」
「馬鹿ども静めんのだって、俺よりずっと上手いし。つか、データとかメンテとかは
 あれだろ、向き不向きはあるって博士だってよく笑うだろうが、別に、苦手に
 してんのは兄貴だけじゃねーし! ってか、ああもう、何だよいきなり…!」
らしくねえな…。
そう締めて、フラッシュマンはおろおろと視線を下げた。喋りすぎたと思ったのか、
少し頬が赤くなる。それでも、最後にぽつりと呟いた。
「こうしてくれるだけで、充分すぎるっつーの…」
星々の見せる姿は、たった一日を逃せばその先数年、数十年待たなければ巡り合わないことがままある。
それをこうして特等席で見せてくれるのはとても喜ばしいことだ。
「……そうか、らしくないことを言った。まぁ、お前が楽しめたなら、それに越したことはない」
「…ただ、次からはカメラが要るか要らないか教えてくれよな」
照れ隠しか、拗ねたようにフラッシュマンが続けると、エアーマンがおかしそうに肩を震わせる。
「それもそうだな」
「……ふん」
「なら取りにいこう」
「あえ?」
「何、もう少し付き合え」
「は、え、わ、ちょ待、タンマ! もっ、もうちょい安全運転で!!」
「聞こえんな」
言われた言葉がどういう意味か、フラッシュマンの回路が一瞬理解に手間取った。
しかしその間に、ぐいん、とエアバイクの角度が下を向く。そのまま一気に降下した。
きらきらと煌めく星を背に少しの間響く絶叫を、エアーマンは笑いながら聞いた。




おわり

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