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「……………」
チカチカと明滅する文字群に、少しの間視覚を断つ。
眉間に皺を寄せ、煮詰まる考えを欝陶しく思いながら、それでも答えという出口を求めた。
ぐるぐる回る似たような数式は浮かぶごとに選択肢から削除され、思考に使用された熱は
用済みの溜め息として出ていく。

─────どうにもうまくいかない。

フラッシュマンは今、セキュリティの構築のアイディアを練っているところだった。
しかしどうにもうまくいかず、こうして詰まっている。
「……」
ふと現在時間へ意識をやると、時刻はそろそろ日付がかわりそうな頃だった。
今日はもうこれ以上やっても無駄だろうか。そんなことをフラッシュマンが思うと。
コンコン、と窓を叩く音がした。ふわり風がへやに流れる。
「……?」
「眠れないのか、フラッシュ」
「……兄貴!?」
窓の外、次兄機体のエアーマンが、バイク型の単機用飛行装置に乗って飛んでいた。
フラッシュマンが慌てて窓辺に駆け寄ると、その目元を黄色い指がなぞる。
「…疲れた顔をしている。また根を詰めているのか」
「…なことねーよ。ちょいうまくいかねーだけだ。つかびびった、いつ帰還したんだ?」
「先程だ」
言いながら、目元をなでた手がそのままフラッシュマンを誘うように差し出された。
きょとんと次兄を見上げる。
「少し付き合わないか?」
「へ?」
「散歩、というわけではないが。まぁ、いい気晴らしにはなるだろうと思うぞ。どうだ」
無理にとは言わんがな。
そう穏やかに笑う低い声に、フラッシュマンは困ったように笑って、その大きな
黄色い手に自身のそれを重ねた。根を詰めたつもりもないが、気を遣ってくれる
次兄の言葉がむずがゆいながらも嬉しかったからだ。
エアーマンの前に収まると、そのままエアバイクは翻って高度をあげる。
「おわ!?」
「しっかり捕まっていろ」
散歩、というには荒い方向転換。そして基地を置き去りにするように風を切って
舞い上がるスピードに、フラッシュマンは思わず目を閉じた。風圧に負けて兄に
もたれかかるように機体を預けると、支えるため腕が回される。
季節は、暦上は春だがまだ風は冷たい。高度があがるにつれ、その温度は下がっていく。
暫らくしてから、急にスピードが収まり、ホバリングしているのか角度が地面と平行に戻った。
突風にも似た風からアイセンサーを庇うように覆っていたフラッシュマンの手を、エアーマンがとる。
「ほら、見てみろ、今夜は月と星の並びが珍しい。こんなのは俺も初めて見た」
「は……?」
言われて見ると、下弦の三日月を挟んで、大きな星が上下に輝いているのが視界にうつった。
「……!!」
等間隔に輝く三つの光源に、フラッシュマンが目を丸くする。
「……わ、まじか何だこれ」
「やはり気付いてなかったか。これを見せようと思ってな」




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