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「フラッシュって、歌わないのな」
「………いきなり何を言いだすかねてめーは」



吹き付けるざらついた乾いた風に、煤けた機体を晒しながらクラッシュマンは立っていた。
先程まで勢い良く回っていたドリルは今は回転を止め、休めるように両脇にたれている。
爆弾で吹っ飛ばした後のあたり一面の瓦礫の中、黒煙が立ち上る方角に視線を向けた。
その背後、朱色の機体から少し離れたところに、煤けた茶色の外套を半端に
まとってフラッシュマンが瓦礫に腰掛けている。風にはためく布から、青い足がのぞいた。
青い弟機体に背を向けたまま、クラッシュマンが言葉を続ける。
「メタルとかバブルとかよく歌ってるだろ。あとウッドも」
「あー、ご機嫌なときにはな。で、何故そこで俺が出てくる」
「何となく」
ゴゥン、と前方に火柱が上がった。
数瞬おいて振動が空気を伝う。二つ下の弟機体、ヒートマンの炎だ。
仕上げに取り掛かっているらしい豪快な炎に、今日は七弟は気分がいいことが知れた。
「クイックも、楽しそうなときは歌ってる」
「おー、ノリノリでな。うるせえったらねーぜ」
「ヒートも歌うけど、歌うときと歌わないときの差が激しいっていうか、波がわかんない」
「あいつは完全に気分屋だからな」
「まぁそんな中、フラッシュって歌わないなーと思ってな。で、どうなんだ弟よ?」
「どうもこうもねえよ。どーでもいいだろーが。つか歌わねぇのはエアー兄貴もだろーがよ」
「エアーは、何ていうかこう、うーんとね」
キュルキュルと軽くドリルを回し、クラッシュマンが自身にまとわる砂塵や小石を落とす。
もう今日はこの両腕の仕事は終了した。
くるり振り返って、片膝をたてて怪訝な顔をしているフラッシュマンと視線を合わせる。
「うまく言えない。けど、おまえとは違って、何ていうか歌おうと思ってない感じ」
「はぁ? 意味分かんねぇ」
ばさり、はためく外套をそのまま、フラッシュマンがヒートマンから任務完了の
旨の報告を受ける。お疲れさん、と返し、今いる地点の座標を送った。

「おまえは、歌わないんだな」

「あーあーハイハイ。どーでもいいだろ、そんなこと」
これより帰還する。艦をこちらへまわせ。
各隊の部下に通達を出しながら、フラッシュマンは立ち上がった。
強制終了された会話に少しむっとしながら、それでもクラッシュマンは自身の隊の艦の姿を空に探す。
すぐに視認されるいくつかの艦が、各自の隊長を見つけて降下に入った。
一つだけ黒煙が立ち上る方角に飛んでいったが、恐らくはヒートマンの隊だろう。
すでに着陸して迎えまで出ているフラッシュマンの背を眺め、その向こうにいる
幾体かのジョーを見やる。フラッシュマンと会話しているらしい、モノアイが嬉しそうに瞬いていた。
ぐしゃり、とフラッシュマンの手が一体のジョーの頭を乱暴に撫でる。
六弟は部下と仲が良いと聞くが、そのままの目の前の様子に、クラッシュマンは
何となく黙ってみていた。七弟から前に聞いた話をメモリから引き出す。

 「フラッシュ、部下の前では無意識に口ずさむ時があるみたいだよ。こないだ
  うちに手伝いに来てたジョーが言ってた」

自身を呼ぶ部下の声に答えないまま、クラッシュマンはぼんやりとはためく茶色の外套を見ていた。

(おまえは、歌わないんだな)

俺たちの前では。

かつりと、踵を返してクラッシュマンも自身の隊の艦に乗り込んだ。



おわり

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