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冷え込む寒さは、未だ衰えを見せない。
突き刺すように寒く冷たい強い風が、基地の周りを吹いていた。
その音に、フラッシュマンはふと似ていると思う。
声を発しないため、静かな廊下のせいで余計に大きく風の音が聞こえた。
それが穏やかになる時間は、まだ遠い。







「あーこりゃまた変な所をやられたのう。これではろくに声は出せまいて。
 待っておれ、これがすんだら発声機能の替えのパーツを組んでおく。暫らくかかるが、構わんか」
言った言葉に、すぐにこくこくと頷く姿にすまんな、と困ったように笑って、
ワイリーはメンテナンス台に向き直った。結構物騒な器具をよっこらせと抱えて、起動させ始める。
途端、物騒な音が響き始めた。楽しそうな白い背を見て、フラッシュマンは廊下へと出る。
メンテナンスの順番待ちにどうやって時間を潰そうかとぼんやり考えていると、
とことこと兄弟機が近づいてきたことをセンサーが感知した。
見ると、ととと、と黄色い箱型の弟機体、ヒートマンが走ってこちらへ向かっている。
黙って到着を待ってやると、ヒートマンはそのままフラッシュマンの足に抱きついた。
「フラッシュー寒いよー抱っこ」
『やーだね、他あたれ』
「あれ、何で通信?」
不思議そうにヒートマンが兄を見上げ、こくびを傾げる。すると、フラッシュマンは
とんとん、と自身の首を指で示してみせた。
「喉やられたの?」
こくり、とフラッシュマンが頷く。
「何だってそんなとこ?」
『俺の基地のメインの水道がここんとこの寒さで亀裂入ってな。錆が生じたり
 電気系統に影響出る前にと思って修繕したらうっかり亀裂が広がって、その
 水の勢いで破片が混入しちまったみてーだ』
「口から?」
『ああ』
「わぁまぬけー」
「う"るせぇ」
「あれ、ちょっとだけ喋れんの? けどひっどい声」
『ほっとけ。そして離せ』
「やだぁあー。寒い思いしたフラッシュをあっためてあげるー」
『要は抱っこされたいだけだろーが』
「あたりっ」
仕方ねぇな。
そんな声がしたかのように、ヒートマンの両脇にフラッシュマンの手が差し入れられる。
そのままひょい、と持ち上げられ、ぽんぽんと背中を撫でられた。
「フラッシュー喉いつ治るの?」
『今クラッシュがメンテ中だからな、そのあとだ』
『ありゃ、じゃあ結構かかるねー』
『まぁな。てか、なーんでお前まで通信使うんだ?』
『何となく』
『変な奴』
呆れたように排気を一つし、フラッシュマンは自室に向かって歩き始める。
振動に足をゆらゆら揺らしながら、ヒートマンはこてりと兄の喉元へ頭をおいた。
排気の度に、奥からザザ、バチバチ、と小さく小さく雑音が聞こえる。
ヒートマンが兄の喉にぴたりと手をやると、フラッシュマンが視線でどうしたと
問い掛けてきた。訝しげな兄を見やりながら、ヒートマンは『痛む?』と通信を送る。
否、とフラッシュマンが首を振った。痛みはあまりないが、ただ声が出せないという
逆にもどかしさがつのる状況であった。
それにそっかぁ、とのんびり返しながら、ヒートマンはまた兄の喉元へ頭をおく。
中から荒れていると分かる音が、断続的にヒートマンに届いていた。
それを聞きながら、聞き慣れた声が聞こえないのは何となくいやだなぁとヒートマンは思う。
そんなことをヒートマンが考えているとはしらず、フラッシュマンはじんわりと感じる
暖かさにこっそりありがたみを感じていた。地味に彼も寒かったのだ。
厳しさを増し冷え込む寒さは、未だ衰えを見せない。
自身の奥でする雑音が、まるで外を吹く風の音のようだとフラッシュマンはふと思う。
声をどちらも発しないため、静かな廊下のせいで雑音は余計に大きく聞こえた。
喉が直されるまでの時間は、まだ遠い。
いつも聞こえた声の名残を探すように、ヒートマンは続く雑音に耳を傾けた。




おわり

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