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□独善
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爆音と、次いであがる炎と煙、吹き付ける熱を帯びた風に多くの人々や機械が
逃げ惑っていた。それらを縫うように消防と避難のためだろう公共の作業用
ロボットと、敵機体の制圧のために出動したガードマシンたちが奔走している。
工業区はその圧倒的な炎によってひどくうだるような熱を持ち、攻撃を受けた
らしい工場は焼け野原となって消え去っていた。しかしそれでも攻撃は止んで
おらず、幾つかのビルが次々と崩壊を始める。公共回線からの情報によると、
それらは殆ど一機体のみによってなされているらしい。使用武器は放射系の
鋭利な刃物と強力な爆弾の、両腕にドリルを持っているという正体不明機体。
もう幾体ものガードマシンがそのドリルで破壊されているという。他にも
複数機体の目撃情報があるらしいがしかし、確認しようとした瞬間に閃光が走り
次の瞬間には姿が消えているというものばかりで、正確な数が把握されていない。
分かっているのは、恐らく閃光弾を用いている程度の事と、そして瞬時に場所を
変えているという事。そのため未だ数や姿形、武器など敵機体の正確な情報が
掴めていない。炎は今尚激しく燃え盛っていた。


ロールはその件の工業区で、未だ燃え盛る炎と煙に逃げ惑う人々やロボット
たちの避難を手伝っていた。逃げてくる者は皆火傷を負ったり服や髪の毛が
煤け、外郭が黒く焼け焦げている。それでも大きな怪我や破損はないらしく、
一様に動く事は出来るらしい。被害者の波に掻き消されそうになりながら、
ロールはそれらの痛々しい様子に苦しげに目を細めた。

酷い。何で彼らはこんな目に。犯人は何のためにこんなことを。

彼らに怪我を負わせた犯人一味に嫌悪感を抱きながら、ロールはまだ逃げ遅れた
人間や機械たちがいないか、最早残骸と化した攻撃対象であった工場の方角へと
足を向ける。兄が被害を止めようと、これ以上広げないようにと戦っている
最中、ロールは自分に出来る事を、一人でも多くを助けようとしていた。
爆音がまた一つ轟き、ビルが倒壊を始める。その轟音に交じり、人々の悲鳴が
辺りへと響き渡った。


「誰か、誰かいませんか!?」
奥へ進むにつれて強まる、舞い上がる黒煙と吹き付ける熱に邪魔されながらも
ロールは逃げ遅れた人間や機械たちに避難先とその道を教え、救助していた。
そうして奥へと進みながら他にもいないかとセンサーを働かせる。しかし、
被害がないといういいことなのか若しくは逆か、ロールのセンサーは生体反応も
機械信号も何も感知しない。暫らく彷徨うように被害者がいないかと歩き
回るが、燃え盛る炎に捕らえる映像がぶれ始める。声を上げようとして、しかし
その熱でいきなり声が擦れた。
「誰、カ…ッ …!? …っげほっ、けほっ…! う、…あ、アれ……?」
急いでシステムを調整しようとしても視界が揺れ、ロールは足元がふらついた
事を自覚した。どうやら熱によるエラーが機体内に発生し始めたようだ。




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