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□独善
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よく晴れた、鮮やかな青い空だった。
優しく強い兄と同じその色が、今日も空を染めていた。



独善



青い服を着た濃い茶色の髪色の兄と、赤いワンピースに金糸の髪を緑のリボンで
高く一つに結い上げている妹が仲良さげに二人で一緒にキッチンに立ち、何やら
楽しげに会話しながら彼らの父のための午後のお茶を煎れていた。
妹がポットにお湯を注ぎ、兄がお茶請けだろう、お菓子をソーサーの傍に添える。
それをのせたプレートを持って、兄妹はキッチンからリビングへと足を向けた。
閑かな午後、ロボット工学の権威であるライト博士の家のリビングで、彼の
手による家庭用お手伝いロボットのロックとロールが、父であるライト博士の
休息のための準備をしていた。学生の頃からの癖であるらしく、一旦研究室に
籠もると中々出てこない彼らの父は研究に熱中しすぎてよく寝食を忘れがちに
なる。そのため、こうして彼らがあの手この手で父に休息をとらせようとするのだ。
暖かな陽射しのなか、リビングのレースのカーテンが微風にゆるゆると翻る。
ロボット工学の権威であるというのにどこか子供っぽい父を思って兄妹がまた一つ笑みを零した。
「さて、こんなものかしら? じゃあそろそろ博士を呼びましょう、ロック?」
「あ、ロールちゃん、僕が呼んで───」

お茶の準備が整い、父をリビングに呼ぼうとしたその途端、その空間を切り裂く
ように耳障りな警告音───スクランブル───が鳴り響いた。

「っ!?」
有事の際の危機を知らせるそのスクランブルに直ぐに反応し、兄の表情が
先程までの穏やかなものから一変して鋭く険しいものになる。
急いでテレビを点けると、そのスクランブルがかかった原因を中継している
映像が映し出された。ここからそう離れていない工業区がヘリであろう空中から
カメラで見下ろされ、その工業区の一部から爆煙があがっている。
レポーターの説明によると、工業区にある工場の一部が何者かによる急襲を
受けているらしい。敵は恐らく複数で目的も正体も不明。強力な爆薬を使用して
いるのかものの数発でそう小さくない工場施設が半壊し、今尚その攻撃は止まず
火の手があがっている。その破壊力から、犯人はロボットであろうとのことだ。
それを観た兄が丸みを帯びたメットを手に取り、直ぐ様ドアへと足を向け
部屋を飛び出していった。妹が駆け出していく兄を驚いて見、慌ててその名を呼ぶ。
「!? 待ってロック!!」
「行かなきゃ、でも心配しないで、すぐ戻るから!」
妹に叫ぶようにそう告げるや否や、兄の姿はエントランスを抜け、すぐに
見えなくなった。スクランブルと直後の慌ただしい声や音に、彼らの父である
ライト博士が何事かと漸くリビングに顔を出す。そして、少年がとっくに
飛び出した後で、そのライト博士に対して彼が造り出した兄妹の兄───
ロックマン───へ、正式に工業区への出動要請が出された。




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