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□仕返し
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確かにデジタル化された情報を読み取れば一瞬ですむのだが、そんなことを
わざわざするまでもなく、フラッシュマンはこの本の内容などすでに過去に
目を通したことがあり知っていた。それでも先程この本を読んでいたのは
情報収集などのためなどではない。ただ、何となく読みたいと思ったから
時間がかかると知りつつ読もうとしていただけだったのだ。
その過ぎる時間こそが読書の醍醐味の一つだと思うのだが、まぁ、それも俺の
勝手な意見だろうな、とフラッシュマンは回路の中で呟いた。
しかし、そんなそっけない弟機体の言葉を気にする様子もなく、クイックマンは
どこか面倒臭そうなフラッシュマンを見つめながら口を開く。
「どんな話なんだ?」
「……あぁ?」
四兄からの意外な質問に、フラッシュマンは間抜けな声を上げながら兄を
見つめ返した。まさかほんの数瞬前の予想を裏切って、この兄が本に興味を
抱くとは思わなかったとフラッシュマンが目を丸くする。
予想外だ、という視線と、どのようなものだ、と疑問を訴える視線が絡み合う。
不思議そうに弟機体に視線を注いでいる兄に対し、驚きをそのまま口にしながら
フラッシュマンが答えた。
「珍しいな、てめぇがこんなもんに興味持つなんてよ? でもこれなげぇから、
 今自分で言った手順で読み取ってこいよ、その方が早えぜ?」
「いや、お前の口から聞きたい」
「はぁああ?」
時間が掛かることを厭う四兄の為に情報を得るための手っ取り早い手段を
提案したというのに、またも予想外な言葉を放つ兄に混乱し、フラッシュマンは
訝しみながらますます素っ頓狂な声を上げた。四兄が回路のどこかにエラーを
抱えているのではないか、とフラッシュマンは疑う。
しかし、そんな弟機体を余所に、クイックマンは相も変わらず涼しい顔で疑問を訴えていた。
少しの間、また青と赤の二機体が見つめ合う。
クイックマンからすれば、本自体や内容は実はどうでもいいのだが、この
弟機体がその本を読んでいたことに興味を抱いた。だからこそ弟機体の口から
聞きたいのだが、当然兄機体のそんな考えなどフラッシュマンは知らない。
「珍しいっつか意味分かんねえやっちゃな、わざわざ面倒なことするなんざよ?
 まぁ、いいけどよ…こりゃ、悪魔と人間がやる賭けの話だ」
「悪魔と人間が賭け?」
フラッシュマンの説明を、クイックマンが不思議そうにそのまま復唱する。
「ああ、単純に言やぁそんな話だ」
「どんな賭けなんだ?」
「人間が満足した時間を惜しんで『時よ止まれ』って言えば悪魔の勝ち、悪魔が
 人間に何してやったって人間が言わなきゃ人間の勝ち。賭けるものはその人間の魂だ」
「へぇ……時を止めたら負け、か」
取り敢えず四兄が飽きてしまわないよう、時間がかからないようだらだらと
説明するのではなくフラッシュマンはクイックマンに端的に本の内容を告げた。
本当はもっと色々あるのだが、それを説明しようとすれば間違いなくこの兄は
欝陶しがった挙げ句に長いと文句を言うだろう、とフラッシュマンは考える。
弟機体のそのこっそり心配りのある簡単な説明を、クイックマンはふむふむと
聞き入れた。そして、またもフラッシュマンにとって思いもよらない言葉を呟いた。




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