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□暇つぶし
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何か賭けねぇ?

出来てしまった余暇を過ごすのにメンコをすることになったため、自室からその
趣味の品を持ってきたエアーマンにそう告げたのは、他ならぬメンコ相手の
弟機体であるフラッシュマンだった。いきなり何を言いだすのか、と弟の言葉に
対しエアーマンが視線で訴えると、フラッシュマンは肩を軽く竦めながら
不思議そうな視線を自身によこす次兄に答える。
「なに、いいじゃねぇか、たまには趣向かえようぜってだけのこった。それに、
 やるんなら何か景品があるほうが燃えるしよ?」
賭け、というものにあまりいい顔は出来ないが、目的があると達成のための
意欲が湧く、というのはエアーマンも戦闘型故に理解できる。そしてまた、
それがえもいわれぬ昂揚感を機体にもたらすことも知っていた。
「……まぁ、な。……それは別にかまわんが、しかし何を賭ける気だ?」
「そーだな……兄貴と俺の持ってる酒、ってのはどうだ? 勝負して負けたほうの酒を飲むっての」
確かいいやつ持ってたろ、兄貴?
俺超興味あんだよな、と言いながらフラッシュマンは悪戯っぽく口角を持ち上げた。
「お前はこんな日の高いうちから飲む気か、フラッシュ」
弟の様子とは反対に、エアーマンは気に入らん、と言わんばかりの視線を向けた。
酒は嫌いではなく、寧ろ好む質であるが飲むのには時と場所というものがある。
そして、今はどう見ても相応しい時間帯ではない、という思考をありありと顔に
浮かべて憮然としている次兄に、フラッシュマンは悪怯れることなくにやりと笑って見せた。
「飲んだってどーせ兄貴酔わねーじゃねーか。───ま、その点についちゃ
 お互い様としても───それに、他の奴らがいねぇ静かな今のうちに、どっち
 かの取って置きを楽しむってのも、たまにゃ悪かねぇだろ?」
「酔う酔わないの問題ではない、こんな時間から飲むことに問題があるというのだ」
「今だから言ってんだよ。明るいのはわかってっけど、他の奴らが帰ってきたら
 味もへったくれもなく飲まれちまうじゃねぇか、そーなんのは俺はヤだぜ?」
博士やバブル兄貴はともかくとして、他の奴らに上物と安物の違いが分かるとは
思えねぇしよ、とフラッシュマンはぼやくように次兄に告げた。そこまで聞いて、
エアーマンはふむ、と小さく排気する。父たるワイリーや、自分達と同じように
酒に強い一つ下の弟機体と違い、他の兄弟機は酒自体にあまり耐性がなかったり
苦みを厭い甘いものを好んだり、量さえあれば味はどうでもよいと飲んだ挙げ句
酔い潰れたりと、確かに弟の言うように酒を味わう質ではないな、とエアーマンは
思った。静かに飲める機会はそうないうえに、何より自身の酒目当てだろう、
いつになく食い下がる弟の持っている酒、というのにも正直興味がなくはない。
弟の口車に乗ってしまっている、という自覚があったが、乗せられたところで
負けなければ良いだけだ、とエアーマンはその自覚を無視する。いいように
される気は、こちらには毛頭ない。




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