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□暇つぶし
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少しすると、フラッシュマンが自室から広間へと戻ってきた。左手にグラスを
二つ、右手には何か瓶を持っている。フラッシュマンはエアーマンの向かいの
椅子に座り、持っていたグラス二つをテーブルに置いて瓶の蓋を開けて中身を
注ぎ始めた。瓶から液体が出ていくときの独特の音を聞きながら、エアーマンは
ゆったりと弟機体のその様子を眺める。部屋にふわりとその液体の香りが広がった。
まだ日の光が窓から降り注ぐ時間帯の部屋に似付かわしくないその香りは、
しかしそれでも二機体の意識を集める。
「マジちゃんと味わえよ、取って置きなんだかんな?」
言いながら、フラッシュマンは自信ありげに次兄にグラスを片方差し出した。
それを受け取りながらエアーマンが視線をやると、グラスのなかでは液体が
揺れ、その狭い水面にはどちらの物か分からないが、青い機体色が映っている。
透き通った色ながら濃密な香りを持つそれに、エアーマンはフラッシュマンが
取って置きだ、と前置きするだけはあると満足気に僅かに目を細めた。
「じゃ、今日の勝者に」
次兄に向けてグラスを軽く掲げ、ふざけたようにそう告げるとフラッシュマンは
自分に注いだそれを自身の唇につけて傾けた。それに倣い、手に持って香りを
楽しんでいたそれをエアーマンも傾ける。
フラッシュマンが部屋から持ってきたのは、彼が大切にしていた秘蔵の酒だった。
精製に手間暇をかけなければならないためにどうしても生産が少量になって
しまうことで有名なそれは、調味料や香料などの類の加工が施されていないのに
とても香り高いものだった。味も、余計なもので誤魔化されていないため変に
刺激が残らない分、すんなりと受け入れられる。それが素材本来が持つ爽やかな
甘さを引き立たせることに繋がり味に深身を持たせ、本来苦みを持つはずの
それがかえって甘いという、相反する独特な味をエアーマンは楽しんだ。
「なるほど、上物だな」
「だろ?」
エアーマンの称賛の言葉を受けとめながら、フラッシュマンは当然、と言いたげ
な表情でまたグラスを傾けた。足を組んで肘掛に片肘をついてグラスを傾ける
姿は、普段酒の席で他の兄弟たちと騒ぐ様子とは打って変わって静かだ。
外はまだ明るいというのに、そしてついさっきまでメンコで勝負を繰り広げて
いたというのに一変した広間の空気に、しかし悪くないと思いながらエアーマンは
原因である弟にか、はたまた共犯の自身にか、どちらに対してのものか
分からないため息を小さく吐いた。




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