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□暇つぶし
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勢いよく腕が振り下ろされる。
すると、その腕が鋭く空を切る音、次いで乾いた衝撃音が向かい合って立って
いる二機体の聴覚センサーに響いた。
その音は片方の機体の聴覚センサーには心地よく、もう片方の機体には耳障りに届く。
耳障りに感じた方の機体は、相手機体がたてた音と、その威力がこちらに与えた
衝撃に表情を強ばらせた。じり、と足が耐えるように後退り、その口からは苦し
げな歯噛みの音が小さく漏れる。思いの外受けたダメージが大きかったようだ。
先程からその機体の状況は、相手機体に比べて僅かだが劣勢気味ではあった。
しかし、若干劣っていたとはいえ、ほぼ均衡していた筈のそれが今の一撃で
明らかな劣勢へと転じてしまった。
その現状の事実に、強ばっていた表情が苛立ちへとかわる。受けたダメージは
小さくはないが、しかし決して覆せない程ではない。そのまま劣勢に終わるまいと
その機体は相手機体をきつく見据え、勢い良く腕を振り返した。
そして、部屋の中にまた一つ乾いた衝撃音が響き渡る。
劣勢に転じてもなお挑戦的に相手を睨み付け攻撃を繰り広げてくるその機体の
視線は、未だ諦めを見せない。
いい目だ。
先程の一撃で一気に優位に躍り出た機体は、相手機体の反撃に目を細めた。
相手のなかなかいい反撃と、その反撃で食らったダメージに内心舌を巻く。
焦ることなく食らい付いてくるからこそ、勝負を楽しめるというものだ、と
プロセッサが獰猛な昂揚を覚えた。
しかし、相手が諦めないからこそ容赦はしない。仕留めるタイミングは、
決して逃さない。こちらが与えたダメージで弱った隙を、見逃すような真似はしない。
小さくくつりと喉を鳴らして、優勢を保ったままの機体は止めのように腕を振り下ろす。
瞬間、自身のその腕の勢いに、相手機体の顔に絶望の色が広がったことを
優勢の機体は視界の端にとらえた。なるほど、確かに先程よりも腕が空を切る
音が鋭い、と回路の端で相手機体の分析速度と予測演算速度にどこか感心しながら、
しかし容赦なくそのまま叩きつける。
一際大きな衝撃音があがり、その音は盛大に部屋の壁に反響した。



「んがあああああああ負けた!!」






暇つぶし



「まだまだ甘いぞ、フラッシュ」
散らばった趣味の品を纏めながら、勝負に負けて悔しそうに不貞腐れてソファに
身を沈める弟機体に、エアーマンは楽しげに声をかけた。その声にうるせえ、と
小さく呟き返し、フラッシュマンは自分が使った分を背もたれごしに次兄に
手渡しながら未だ憮然とした表情でぶつぶつと愚痴をこぼす。
「ちっくしょ、途中まではぼちぼち着いてってたのによぉ…」
「確かに惜しかったが配置が甘かったな。あれでは一気に返しやすい」
よほど悔しかったらしい弟の様子に小さく笑みを浮かべ、先程の勝負の評価と
アドバイスを言いながらエアーマンは、フラッシュマンに貸していた分の自身の
趣味の品───メンコ───を弟から受け取った。ざっと状態を調べる。
接戦に接戦を重ね、白熱した勝負の後の割にそれは特に痛んではいなかった。
エアーマンはそれらを纏めて丁寧に専用のケースに収め、大切そうに蓋をしめた。




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