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□声 (後編)
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「あ、メタル兄ちゃん」
「どうしたの、兄さん」
広間に顔を出した長兄に、ウッドマンとバブルマンが声をかけた。
弟機体たちに向かってメタルマンが穏やかに、しかしどこか疲れたように微笑む。
「いや、博士がフラッシュのボディの接続を開始された、お兄ちゃんに出番は
 ないから戻ってきたんだ…クラッシュは?」
「相変わらず、部屋から出てこない。今はヒートが会いに行ってる」
「そうか…」
三男の返答を聞きながら椅子に座り、メタルマンは溜め息のような返事をした。
あとは父に任せ、自分達は待つしか出来ない。
分かってはいるが、落ち着かないもどかしさにメタルマンが俯く。
「フラッシュ起きたら、どうしてやろうか?」
他の兄弟機たちとは違い、バブルマンがどこかのんびりとつぶやいた。
突然の兄機体の言葉に、末弟のウッドマンがついくすくすと笑う。
「ふふ、僕は取り敢えず借りたカメラ返さなきゃ」
「えーもう貰っちゃいなよ、ウッド。待たせた罰で」
「えぇえ?」
自由人の三兄の言葉に、ウッドマンが困ったような声を上げ、笑った。
いつだってこの兄弟機は持ち前の大らかさと広い心で、沈んだ空気を軽くしてくれる。
広間の空気が少し明るさを取り戻したことに、俯いていた長兄も少し微笑んだ。


「ねぇ、ウッドがね、フラッシュのボディ接続が始まったってさ」
「…………」
「いつまで寝てるんだろね、いい加減起きろっての」
「…………」
「起きたら遊んでもらわなきゃ」
「…………」
「…元気だしなよ、クラッシュ」
ヒートマンが、黙りこくったままの二つ上の兄機体に声をかけた。
クラッシュマンの部屋のなか、寝台に膝を抱えて座っている部屋の主人は、
弟機体の声に言葉を返さぬまま動かない。
クラッシュマンは自身が破壊してしまい、未だ破損したままの弟機体に会うのを
拒んだのだが、四兄に連れられ長兄に請われ、先ほどやっと地下での出来事以降
初めて六男に顔を会わせた。
ポットの中の弟機体の顔は一見穏やかに見えたが、しかしその体は下半身が
欠損したままだった。
長兄に助けられながら侵入した弟機体のなかは、不気味に静かで冷たく、
恐る恐る呼び掛けてみても何の反応も得られなかった。
目覚めない弟。自身が貫いた機体。壊した現実。
クラッシュマン自身に弟を破壊した記憶は一切メモリに残っていなかったが、
それでも、紛れないその事実と今の現実にクラッシュマンは怯え、ラボからすぐ
部屋に戻りそのまま籠もってしまっていた。
「体戻れば起きるって」
ヒートマンが再度兄機体に声をかけ、そっとバイザーを撫でる。
微動だにしない兄の傍で、マイペースなヒートマンは独り言のように話し続けていた。
返事などなくてかまわない。ただ、ラボから戻ってすぐの今、この兄機体を
一人にするのは、よくない気がする。
そう思ったからこそ、ヒートマンは兄機体の部屋に訪れ声をかけ続けていた。
兄機体はそれを拒みはしなかったため、ヒートマンは気兼ねなく喋り続ける。

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