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□声 (後編)
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暗い暗い、闇の中。
ゆるやかにただ、落ちていく。
どんなに嘆き悔やんでも、それでも届かないのなら。
届かなくても、構わない。
声
「そうか、クラッシュにも何も反応無しじゃったか」
「はい、駄目でした」
白い天井、白い壁。
雑多な機械類にあふれた白い部屋、ラボの中にワイリーと長男のメタルマンの
声が静かに響いた。二人ともどこか残念そうにしている。
二人のそばには、カプセル型の大きなポットが置かれていた。
中には上半身だけが残り、その体に様々なコードを繋がれた青い機体──フラッシュマン──が
眠るように横たわっている。
コアから意識にプロテクトがかかっている彼は、まるで死んだように動かない。
しかし、その問題のコアは小さく光を携え瞬き、機能破壊に至っていない事を二人に教えていた。
その彼を起こそうと先ほど五男のクラッシュマンをフラッシュマンの中に
侵入させたのだが、他の兄弟機が行ったときと同様、フラッシュマンは何の反応も示さなかった。
呼び掛けに反応する可能性が一番高いと思われたクラッシュマンへの無反応に、
二人は行き詰まったように考える。
フラッシュマンのコアは、もう自身の機体が安全圏にあると認識しておらず、
いわば警戒しているままだ。
いっそワイリー自身が無理矢理コアにアクセスすることは、可能は可能だった。
しかし、厄介なのはフラッシュマンが、自身が父の傑作であることを理解して
おり、その情報を護るための策を講じているだろうということだ。
父のアクセスですらそれを父と認識していない今、下手にアクセス出来ない。
「ふむ…仕方ないのう。なら取り敢えず、ボディの再形成は終わったから
ボディとの接続を施そうかの。…フラッシュを出してくれ、メタル」
「分かりました」
ワイリーの言葉に、メタルマンがポットのパネルを操作する。
空気が吹き出すような音がし、二枚貝が開くような形でポットが開いた。
メタルマンが、弟機体に接続されていたポットのコードを外し、上半身しかない
体を抱え上げてメンテナンス台の上に乗せる。
隣の台には再形成されたボディが横たわっていた。
「ご苦労じゃった、後はワシがやろう。ボディと接続すればコアのプロテクトも
変化があるかもしれん、もうさがってよいぞ、メタル」
「はい」
ワイリーの言葉に、メタルマンがラボから退出した。
コアが機体の安定を認識すれば、プロテクトは自動的に解ける可能性がある。
無理矢理なアクセスを試みるより、よほど安全で目覚める可能性は高い。
未だ昏々と眠り続ける息子を見下ろし、二人になった室内でワイリーがため息をついた。
「さて…、早く起きんか、この寝坊助」
皆待っとるぞ、とつぶやきながら、ワイリーは器具を手に取る。
この息子が起きなければ、誰よりも嘆き悲しむ息子がいるのだ。
息子を死なせはしないし、息子を悲しませもしない。
ワイリーの手により、フラッシュマンの再形成したボディと残存部の接続が開始された。