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□声 (中編)
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深く深く、ただ遠く。
全ての音を断ち切って。
白い扉、白い部屋。
近い距離のはずなのに、遥か遠くで届かない。
声
「……?」
ふと、意識が浮上し、体の重みを感じた。
スリープモードから起動し、寝ていたのか、と自分の状態を理解する。
目をあけるが、視覚システムが正常に働いていないらしく、視界がぼやけたままだ。
数度瞬きした視界にうつるのは、見慣れたラボの天井。
確か、自分は護衛の任務についていたはずだ。いつ帰ったのだろう、とクラッシュマンはぼんやり考える。
「……?」
体に何か違和感を覚えた。妙な、喪失感のような感覚。
腕を上げてみる。
「……?」
腕を、上げたはずだった。
クラッシュマンは、自分の両腕が二の腕から先が無いことに気付いた。
「っっ!?」
ガシャン、と派手に音をたて、クラッシュマンが飛び起きる。
「わ、クラッシュ兄ちゃん!? 落ち着いて、大丈夫だよ」
「ウッド!? 俺の腕、何で…何でないんだ!?」
部屋のなかにいたらしい末弟が、心配そうにクラッシュマンに声をかけた。
その末弟に、クラッシュマンが自身の状態について問い掛ける。
「任務で負傷しちゃったんだよ。大丈夫、博士がすぐに治してくれるよ」
「任務で……負傷…?」
ウッドマンの答えに、クラッシュマンがぼんやりと問い返した。
メモリにサーチをかけるが、うまく働かず思い出せない。
そして、新たな疑問が沸き上がる。
単独任務では、無かったはずだ。
「バブルとフラッシュは、二人は無事か、ウッド?」
その問い掛けに、ウッドマンがぎくり、と一瞬表情を強ばらせ、しかしすぐに微笑む。
「二人とも、大丈夫だよ。もう休んでるけどね。何か、疲れてたみたいだよ」
「………二人はどこだ」
優しい末弟の、暖かな微笑みの前の不自然な強ばりに不信を抱き、クラッシュマンが二人の所在を尋ねた。
「兄ちゃ…」
「どこだウッド!!」
狼狽えたウッドマンに、クラッシュマンが吠える。
次の瞬間、メンテナンス用の診察台から飛び降り、駆け出した。
普段おとなしく明るい三つ上の兄の、突然の行動にウッドマンが叫ぶ。
「わ、待ってあんちゃん! 動いちゃダメだ!」
あんちゃん、と呼び掛ける末弟の声を背に受けながら、クラッシュマンは走った。
広間にも、トレーニングルームにも、室内プールにも、目当ての二人はいない。
個々の部屋のドアシステムは“主人不在”を告げていた。
(なんでいないんだ? 追加任務なわけはないし…じゃ後は……まさか、地下?)
地下にも、基地内のものほど使用されないが、ワイリーのラボがある。
基地内の方には、自分と末弟しかいなかった、とクラッシュマンは考えた。
しかし、ほとんど倉庫と化しているそこにいたとして、一体何をしてるのか。
分からないけど、他のどこにもいないんだし、と思い、クラッシュマンは
とりあえず地下に向かった。