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□声 (前編)
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「バブル兄貴、ちょっくら耳かしな」
「なに、フラッシュ?」
フラッシュマンはバブルマンに顔を向け囁いた。す、と右手を指し示す。
「あっち、こっから右方向20の瓦礫下。あそこ確かマンホールあっただろ?」
「うん、一応チェックはしてあったけど、あんまり広くないから使えない」
そう作戦ねるとき言ったじゃん、とバブルマンが囁き返した。
「兄貴だけなら、行けるだろうが」
つぶやかれた言葉に、バブルマンが驚く。
「…!?」
「あのバカを引き付けて、反対方向からバスターで瓦礫ぶっ壊すからよ、そしたら兄貴あそこ入れよ」
右手をハンド形態からバスターにシフトチェンジしながら、フラッシュマンは話を続けた。
その弟の言葉に、バブルマンが高熱でエラーが起きそうなアイセンサーを訝しげに歪める。
「ちょっと待て、お前一体何を言って…」
「離脱しろっつってんの。これ、盗みきれなかったが、一応奪ってきたデータが
 入ったチップ。博士に届けてくれ」
フラッシュマンは小さなチップを取出し、弟の言葉に反論しようとする
バブルマンに有無を言わせず押しつけた。
その行動に、とうとうバブルマンが弟を睨み付け声をあげた。
「ふざけるな! お前何を…」
「このままここにいて、エアー兄貴が来る頃には二人してスクラップか? 笑えねえよ」
叱り付けようとした兄に、フラッシュマンがすぐに言葉をつらねた。
「…頼むから、博士にそれ届けてくれよバブル兄貴。暗号かけて送信、なんつってる
 場合じゃねーし。途中でデータ盗んのやめちまったのは俺のミスだ、せめて
 それだけでも博士に渡してえ」
騒ぎが起こり、データ奪取を途中で終えてしまったため、データをまだワイリーに送信していない。
今暗号をかけて送信したとして、解読メモリは待機しているはずだったクラッシュマンに渡していた。
しかし、その解読メモリの安否すら怪しい今、送信は無意味におわるだろう。
今から暗号を組む時間も余力もない。
なら、加工していないままのデータを直に運ぶ方が、父のためになる。
不完全なままのデータでも、せめて父のもとに。
自分達を創った父が、自分達の何よりの優先事項。
バブルマンはそのことに気付き、わずかに葛藤しながらも、仕方がない、と
いったようにデータチップを握り締めた。
「……分かった」
「ん、サンキュ、兄貴……じゃ、俺が出たあとすぐな。失敗るなよ」
「誰が」
自身のわがままに近い頼みを苦い表情で承諾した兄に、フラッシュマンは一瞬
ホッとしたような表情を見せ、すぐに引き締めた。
二人が別々の方向に走りだす体勢をとる。
「死ぬなよ」
「誰が」
バブルマンのまるでからかうかのような声に、弟は同様に軽く、先ほどの兄と同じ答えを口にした。
「お先にっ」
フラッシュマンが瓦礫の後ろから飛び出し、走りながらバスターにエネルギーをためる。
クラッシュマンがそれに気付き、赤い目が青い機体を視認した。
嬉しそうにドリルを回転させ始めたクラッシュマンの様子を視認し、今度はフラッシュマンとは
反対方向にバブルマンが瓦礫の影から飛び出す。
もうどの建物のものであったかも分からない壁であった塊の下、単身なら使えるマンホールを目指した。
(さあ、こっちだバカ野郎)
フラッシュマンは右手にエネルギーをため、バブルマンとは反対の方向に走る。
それをクラッシュマンが追うが、フラッシュマンはそうすることでバブルマンの
目的位置から一つ上の兄を引き離していた。
ちら、と後ろを見るとドリルの向こうでバブルマンが目標地点近くに見えた。
ばっと振り返り、フラッシュマンがためていたバスターをうつ。
それにクラッシュマンが一瞬反応するが、その弾が自身を掠めただけの事実に、
目の前の獲物に集中することにしたらしく怯まない。
フラッシュマンの放った弾は、数発外れたものの、マンホールをふさいでいる
瓦礫を何とか吹き飛ばした。
バブルマンはその破片に耐えながらマンホールまで走り、ふたをこじ開け中に飛び込む。
少しの間、空を切るように降下し、ざぶんと水に突っ込んだ。
そのまま少し水流に揉まれたが、バブルマンはなんとか体勢を戻し、水路の中を泳いでいく。
(…自分だって、熱にやられてやばいくせに。クラッシュボムは、弱点武器のくせに……)
父のため、という大前提に隠して、自分の状態を心配して囮になった弟に、
バブルマンは小さくごちた。
早く、できるだけ早く。
可能なかぎり早くに次兄が来るよう、バブルマンは通信機を作動させた。
自身は離脱した、だから五男と六男のもとに早く向かって欲しい。
そう伝えるために、バブルマンはエアーマンに向けて信号を発した。




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