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止めはしない、つとめるために避けられぬのだから。
勧めはしない、無いにこしたことはないのだから。



破損



ラボの前を通りかかり、そのドアが開いている事にふと足を止める。
スライド式のそれが、今はどうやら開いた状態に設定されているらしい。
少し不思議に思い、クラッシュマンはラボの中を覗き込んだ。
すると、何となく覗いたその中に、クラッシュマンは見慣れた青を視認した。
すぐ下の弟機体だ。
こちらに背を向けて椅子に座り、何か作業している。
ラボの中、一体何をしているのだろう。
そう思いながらクラッシュマンはラボ内に足を踏み入れた。
雑多な機械類に溢れ、青のみが目立っていた白い部屋の中に、明るい朱色が加わる。
少し近づくと、弟機体の向こうにモノアイの機体がいることにクラッシュマンは気付いた。
青い弟機体の影に隠れて見えなかったらしい。
それにクラッシュマンは少し意外そうな顔をしたが、次の瞬間、その二機体の
左腕の装甲が外されており、内部を弟機体の右手が触れていることにさらに面食らう。
二機体の背後に立ち、クラッシュマンはとっくに接近に気付いているであろう弟機体に声をかける。
「…なぁ、弟よ?」
「あんだ」
「何やってんだ?」
「見て分かんねぇのかよ、メンテだメンテ」
すぐ上の兄機体に背を向けたまま、フラッシュマンはぼやくように答えた。
特に驚かないあたり、やはり接近に気付いていたようだ。フラッシュマンの
向こうにいたジョーが、クラッシュマンに軽く頭を下げる。
すると、フラッシュマンが動くな、とジョーを嗜めた。
クラッシュマンはそんな弟にさらに疑問を重ねる。
「何でジョーがいるんだ?」
「俺の部下だよ」
「何でジョーの腕、お前がメンテしてんだ?」
「いいだろ、別に」
「で、何でお前、自分の腕もメンテしてんだ?」
「ああ? 序でだ、序で。軽くエラーあったんだよ、俺の腕も」
「…ふぅん……」
「用がすんだなら邪魔すんな兄弟。見ての通り俺は今忙しいんだよ」
そう締め括り、フラッシュマンは自身の腕と部下の腕のメンテナンスを続けた。
武骨なようで器用な右手が、二機体の腕の繊細な回路を行き来する。
矢継ぎ早の質問が途絶えたため、ラボ内の機械類の駆動音とメンテナンスの
小さな音だけを残し、沈黙が三機体を包んだ。
「………」
「………」
「…………あの、隊長…」
「もう少しだ、待ってろ」
「は。…いえ、あの、その…」
そうではなくて、と言いたげに、自身の隊長であるフラッシュマンの右手を
見つめていた視線を、ジョーが床へと不安げに泳がせた。



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